始まりは2007年、札幌と福岡の舞台芸術系NPOの共催による企画「Meets!」で脚本共作という企画に挑んだ福岡・万能グローブガラパゴスダイナモスの川口大樹と札幌・yhsの南参。
「ファイターズとホークスの試合のテレビ中継が流れている場所」というルールで書いた2人の台本を繋げて一つの作品として、それぞれの劇団の公演として上演(『逃げろ/にっちもさっちも』)。
2年後の2009年度にはこの経験を踏まえ、出演者を札幌出身と福岡出身と二つの設定に分け、スカイプのチャット機能を使って順番にセリフを書いて行くという共作を行い、同じ台本(『鍋のナカ』)で福岡と札幌で連続上演を行った。
それから10年、この3月に万能グローブガラパゴスダイナモスが本公演として初の札幌公演を行う。偶然にも、yhsも同じ日程で公演を行うことになっている。
2月初旬。プロモーションのために札幌を訪れた川口大樹と南参に、当時のこと、ここまでの10年について話を聞いた。
参加者:
- 川口大樹(万能グローブガラパゴスダイナモス)
- 南参(yhs)
- 横山祐香里(万能グローブガラパゴスダイナモス)
(聞き手・文=小室明子)
二人の出会い
南参 最初の、出会いの話をしますか。
川口大樹(以下:川口) 下北沢ですよね。僕覚えてます、半地下の店。なんかちょっと木の感じのとこだった。めっちゃ覚えてるんです。南参さんがビール飲んでた(笑)。
南参 俺もまだギリ20代で、川口くんの写真だけ見ていて、こいつ生意気そうだなって思って。なめられちゃいけないって(笑)友達とビールをかっくらって無頼気取りで会いに行きました。
川口 それがもう12〜3年前。23とか4とか。ガラパを旗揚げして2〜3年くらいの頃ですね。『逃げろ/にっちもさっちも』のyhsでの上演を観て、全然違う仕上がりになっていたなって思いましたね。自分が書いた脚本を他の人が演出するのを観たのも初めてでした。
南参 僕も初めてに近かったかも。不思議な感じです。自分が書いて、自分が演出してるのは普段やってるけど、他の人が演出してコメディな笑いが起きると、「あ、こういうところは通じるんだな」っていうことを感じたりとか。
川口 貴重な体験っていうか、ほんとにめちゃくちゃ覚えてる。
南参 それが1回目のコラボ作品『逃げろ/にっちもさっちも』。それがあって2年後に、今度は一本の話を作ろうってなった時に、福岡と札幌の共通点はなんだってことで、ラーメン屋さんの話にってことになった(『鍋のナカ』)。公演は福岡が先だっけ。今思えば、ツアーの原体験っていうか、それがすごく楽しかったし、自信にも繋がった。
川口 yhsがめちゃくちゃウケてて。一緒に書いた本をyhsが福岡で上演して、それを福岡の、俺らが知ってるようなお客さんが見て笑ってるっていうのが、すごく面白かったっていうか、夢みたいな光景だなって思いました。普通じゃ絶対起こりえない。
ー 大げさじゃない??(笑)
川口 イヤイヤ、本当に不思議でした。
南参 違いで印象的だったのが、衣装ですね。舞台装置は共通だけど、衣装のテイストが、yhsは地味だなと思って(笑)。ガラパはカラフルだった。劇団のカラーなのかもしれないけど、やっぱり福岡の人たちのファッションと札幌の人たちのファッション、やっぱり札幌は地味っていうかシンプルっていうか。福岡の人たちの方が自己主張があるなって。明るい感じがすごくした。
川口 なるほどー。
南参 北海道弁と博多弁もある程度意識して書いたけど、そもそも書き方が、チャットして書くっていうやり方だった。
川口 特殊ですよね。相手が何言ってくるかわからないってことは普通ないですからね、脚本書いてて。
南参 ある程度の流れは決めてはいたけど。そうくるか、とか、なんだこの情報は、とか。布石にした方がいいのか、とか。相談しながらではあったけど。あの試みは今でもあんまりないね。
川口 ないでしょうね。不思議な体験だったもんな。書いてるのかなんなのかよくわかんないけど本ができていく、みたいな。
横山祐香里(以下、横山) やりとりは順調に行ったんですか、川口さんいつも遅いじゃないですか(笑)。
ー 会話のやりとりはポンポン出てたような記憶がある。
川口 流れはざっくり決まってたから、流れに乗ってセリフを考えるのはそんなに大変じゃなかった。
南参 終わり方は…、揉めたわけじゃないけど、どうしようかって話し合った。その時はうちに何日か滞在して。
川口 泊まらしてもらいました。
南参 3日間くらいいたのかな。ある程度脚本ができて、さあどうしようってなって、飛ぶ劇場の泊篤志さんと千年王國の櫻井幸絵さんに読んでもらって、意見をもらった。
横山 めっちゃ懐かしくなってきた。思い出したら。
南参 上演したのがちょうど10年前で、3月にガラパが札幌に来た。
川口 そうですね。案の定すごい雪積もってて。
南参 本当はね、雪はほぼ溶けて無くなってると思うよって季節だったんだけど(笑)。
川口 めっちゃ吹雪いてました。なんかあれで、あっという間にめっちゃ仲良くなりましたよね。
南参 千秋楽が札幌で、「ふる里」(劇場近くの居酒屋)で打ち上げがあったけど、もう名残惜しくてね、みんな。次いつ会えるかわかんないから。
川口 役者も同じ役やってたりするからね。もちろん刺激にもなるだろうし、親近感みたいなのもあるだろうし。ダブルキャストとも違うじゃないですか。稽古場でどう作ったのかもわからないけど、出来上がったものがあって、同じ役で解釈だとかやり方が違ったりしてみたいなことがあると、互いにつながるものがすごくあるんだろうなと思うし。ちょっと異常でしたよね、あの盛り上がりは。普通の感じとは違いましたね。
南参 そのあといろんな地域に行かせてもらったり、演劇人の知り合いも増えたんだけど、ガラパは一番最初に仲間になったなって感じが強い。もちろん、地元の人たちもいるけど、地元の人たちは身近なライバルっていうところも強い。(ガラパとは)距離が離れてる分、そんなことより仲良く、お互い頑張って行こうぜ、っていう気持ちの方が強いな。
互いの活動を振り返って
ー こういう企画をやったことがその後の活動に影響したりしていますか?
川口 僕は最初の共作のときは、脚本書き出して2年か3年目で、コメディ書く人が身近にいたこともなかったし、書き方もわからないまま書いてたところがあって。
僕は会話会話でつないでいくことをずっとやって、音響照明っていうものをほぼ使わないイメージで書いていた。他の芝居を見て音響照明が入って面白いなって思うことはあったけど、自分の本もそういうやり方でできるんだなっていうことを思った記憶があります。そこは演劇観というか、自分の中で幅が広がったっていうのはありますね。こういう風にやってもいいんだなって。
南参 ちょうど今年の夏にやる、『ヘリクツイレブン』(2011年初演)がシチュエーションコメディで。それまでがっつりしたシチュエーションコメディって書いたことなかったけど、共作企画の後でまたコメディ描きたいなと思った時に、挑戦してみようって思ったんですよね、ガラパの作品を見て。
書こうと思って書いたんだけど、俺には川口くんみたいなのは無理だなって(笑)思った。当時見てたガラパの作品だと舞台装置もここに人が隠れて、とか、これが布石になって勘違いが起きて…、とかっていうのがあったけど、考えられなかったね、俺には(笑)。違うものになった。これは川口くん毎回大変だわ、って思ったよ。
川口 似てるようなところもあり、結構違って、っていうのは作り出して気づいたところがすごくありましたね。
南参 コメディと言いながらどこを大事にしてるかっていうか。年齢が5つくらい違うから、その感覚も多分違ったと思う。今はもっと離れてるかもしれないし、ちょっと近くなってるかもしれないんだけど。
当時、俺、結婚もしてて、2回目の時は子供が生まれるっていう時になってたから、芝居の経験とは別として、人生経験みたいなのが多分ちょっと違ったりして、そこらへんの感覚も違ったか。
あと、どうしても年下だから、弟のように見てたり(笑)。今はどうなってるのかなぁ。昨日、「のと☆えれき」で『「甘い手」は久々にバカバカしいコメディ』って言ってたけど、逆にいうと最近は違ったんだ。
川口 違いましたね、ドラマみたいなことをしっとりと…。
南参 そのイメージが全くないからね。
川口 ちょっとブラックみたいな方向に行ってたんですよね、あと、ちょっとSF、ファンタジー。ワンシチュエーションコメディではあるけれど、悪魔が出てきたりとか生まれ変わりとか…、もともと星新一が好きだから、星新一的なSFなんですけど。最後どんでん返しがあるブラックコメディみたいなのを最近はやってました。でも今回はSFも一切なし。
南参 そっちに行ったきっかけみたいなのはあるの?
川口 普通のシチュエーションコメディの手がなくなったんですよね。結構書けそうなシチュエーションはやっちゃったんで、例えば家の話にしようと思っても思いつくものがあんまりないなって思って。だから、家だとしてもあの世とこの世の間の家って設定にしよう、死んだ人があの世に行く途中にそういう家があって、みたいな。
現実的、物理的な制限をぶっ飛ばすには、設定をSFに飛ばせば、見てるお客さんもこの設定だったら関係ないところから人が出てきたりしても納得できるだろうし、とか、そういう発想からSFに行ったんです。
それを4年か5年くらいやって、戻ってきました。普通のコメディに。
南参 しっとりしたっていうのは。
川口 作風はこの10年の間に結構、多分いろいろ紆余曲折ありながら、変わりました。
横山 ドラマがなかったじゃないですか、昔は。面白いことしてその場で登場人物が暴れてわーって終わりっていうのが多くて、それが面白さではあったんですけど。ドラマがないドラマがないって。なんかめっちゃ言われるし(笑)、これが面白くてやってるから別にいいんだけどって思ってるんですけど。今回はちょうどいいバランスですね。
南参 それこそ共作した時は、俺もドラマを入れたがってたんで、そこらへんが川口くんは「そんなに必要かな」って思ってんだろうなって感じがあった。
川口 そうですね、多分そうだと思います、あんまりわかってなかったですね。
南参 重くしたくないって言ってた。
ー 骨のくだり(注:「鍋のナカ」で、ラーメンのスープを人骨で取ってると勘違いするエピソードがあった)とかね。割と最後まで納得してない風だった。
南参 最終的には誰も死なないんだけど、殺されたんじゃないかって思わせるようなお話があって。怖すぎるんじゃないかって(笑)結構言ってて、俺が頑張って説得した、俺ん家で。
ー 俺ん家で(笑)
川口 今思うと腕がなかった、技術がなかったなって思いますね。一個エピソードというか、この展開ってなった時に、書き方の種類や手が全然なくて、当時。
今だとこういう題材こういうテーマ、こういう展開ってなったら逃がし方とかかわし方とか結構身についたと思うんですけど、当時は球種が一個しかなかったような感じだから、そこから逸れると自分の中で難しくなる。今だったらもうちょっと上手にできるなって思いはします。
南参 俺も自分が本当にもっともっと若かった、20代前半くらいはあんまり、ドラマとか嫌だったんだよね、ギャグはギャグとしてカラッとして意味なく笑ってそれでいいじゃないかっていう感じだったんだけど。
札幌のお客さんて特にドラマ性を求める感じがする。ただただ笑ってっていうのももちろん好きなお客さんもいるけど、感動したい、泣きたい、みたいなのが昔は特に多かった気がする。(ドラマ性が無かった時は)「で何が言いたいんですか」ってアンケートにも書かれて、「別にないけど」って(笑)。
そういうのに昔は反発してた時代もあったんだけど、それは人生経験の中で、笑えないことあるな、とか(笑)。っていうこととかも表現したい気持ちが出てきたりとかね。
でも、同じことやってるとネタが切れるって本当にわかるよ(笑)。俺もこの10年試行錯誤試行錯誤で、いつの間にか歌舞伎を原作にした作品を作ったりとか。もちろん、コメディは今も好きだし。いろいろ手を替え品を替え。
川口 そうなりますよね。
横山 思考錯誤してるからこそ、10年続いてるのかなと思います。
ー さっきも話してたけど、お互いちゃんと10年続けてこれたのって結構すごいことですよね。
川口 すごいことですよね。
南参 どっちかがしょんぼりしてるわけでもなく(笑)。
川口 ここで10年経ってまた会えるって相当すごいことだなって。普通ないですよね。
横山 しかも福岡は同世代の劇団がほとんどなくなっちゃって…。私も同期がみんな辞めちゃったりとかあるし。
川口 本当に、お互いすごいことだなと思うし、なんか嬉しいことだなとも思う。「Meets!」ってまだ繋がってる企画なんだなって改めて思います。だってこれがなかったら札幌公演絶対やってないですからね。さっきもなぜ来たのかって聞かれたけど、15年目っていう劇団の節目もあるけど、南参さんとか当時のyhsメンバーに、今のガラパ見て欲しいなっていう気持ちに、やっとなれてきたっていうか。ちょっとは見せれるものができてきたって思えるようになった、っていう気がしてるっていうのはありますね。
ー 新聞の取材では代表作になるかもって言ってましたね。
横山 言い過ぎたかな(笑)。
川口 割と、代表作になるかも。
横山 面白いのが、今回、川口さんも好きなことを詰め込んでるし、私たちも思いっきりやれていて。劇団やってくって、めっちゃ大変じゃないですか。
南参 大変だねぇ。
川口 大変ですよね。
横山 ぎゅーってなった状態でやってたりするんですけど、今回は新しいメンバーも入って全力でやってみたら意外とそれがいい感じの作品になった、っていうのが、蓋を開けてびっくり。
川口 もうね、演劇界で評価されようとすることをやめたんです。
一同 (笑)
川口 賞とか、偉い人が褒めるとか、そういうことはいいやって。暗い話をやってた頃は、それを意識するあまり、演劇的にとか文学的要素が、みたいな、頭の片隅に下心があったんですけど、やめました、今回は。一切。ただただお客さんが面白いと思ってくれるようにってことだけをやったら、意外と普段褒めてくれない東京の人が褒めてくれた。
南参 そういうのあるんだよ。俺もあった!それこそ、(yhsの)15周年の時も、ツアーとかではないけど、割と好きなことやろうって思って。
20周年の時の『白浪っ!』っていう作品も、札幌劇場祭に出したんだけど、20周年だし大賞獲りたい気持ちもあるんだけど、そんなことよりお客さんを楽しませたい、ただ賑やかな、20周年でおめでとうってお祭りにしたいなって思ったんだよね。そしたら大賞獲っちゃった。
結局、テーマとか云々だけじゃなくて、好きなことをやるからみんな突き詰めてやるんだよね、それが結果、いい方向に行ったのかなって。
ー 邪心がない方がね。
南参 だからきっと、川口くんもそういいながら何か賞をもらったりするかも。
川口 こだわりも全て捨てて、とりあえず面白い瞬間だけを切り取ってぶつ切りにして出していくって形にしたら、逆に良かった。
今まではいかに面白い要素をワンシチュエーションっていうテクニカルな技術の中に落とし込むかみたいなことに結構頭を使ってたんですけど、それを全部やめて、とりあえず面白いシーン、終わったらはい次の面白いシーン、面白いセリフ描き終わったらはいこのシーン終わり、っていうことだけをやって並べたら演劇として面白いって言われる。
やっぱりやりたいことというか、楽しいことやったら、乗ってるんでしょうね。脚本とか全体の芝居に。15年目にしてやっと、気づきましたね。
ー 紆余曲折の中で培った技術みたいなものがあった上で吹っ切れたからですよね。
川口 それはあると思います。あの頃って過渡期っていうか、まだ若くて、これしかできないっていう頃だから、南参さんとかに見てもらうのほんと楽しみだなと思います。
南参 話聞いてたらほんとに楽しみ。どんな感じになってるんだろうって。
川口 ずっとふざけてます。
福岡から見る札幌演劇
ー お互い、札幌の演劇と福岡の演劇、なんとなく気にはしてきてたと思いますけど、川口くんから見た札幌の演劇はどうでしょうか。さっきも福岡は追いつかれて追い越されたって話をしてたけど。
川口 すごくないですか。実情はわからないですけど、福岡から見てる感じで言うと、街として盛り上がってるなっていうか、土地が演劇に対してポジティブな印象で動いているような感じがすごくする。
劇場が色んな企画を出したり、その中で演劇人たちが競い合ってる。いい意味でお互いがお互いを利用しあっているような、劇場と街とそこでやってる演劇人たち、その相互作業がうまく行ってるような印象があるんですよね。
賞だったり大会だったりに誘導されて作品を作って、いいものになってそれを外に持って行こうとか、それを他の別な劇団しか見ていなかったお客さんが見に来るとか、すごくいいうねりがあるなって、見てて僕は思いますけどね。
ー 実際、中にいる南参さんはどうですか?
南参 結構よく言われるけど、札幌演劇シーズンっていうのが大きいかな。それまで、一週間、8日間くらいのスパンの公演ってyhsはやったことがなかったし、札幌のほとんどの劇団もやったことなかったと思う。それはもうそういう企画なので、原則的にはそれに乗っからなきゃいけない。
最初はものすごい不安だったけど、それまでより延べで言えばお客さんは来てくれたし、演劇シーズンは普段演劇を見てる人じゃない人が結構見に来てる。
前に使ってた稽古場が、普通のテナントの一室で隣が普通のオフィスだったんですけど。普段、僕らは夜稽古して向こうは昼間仕事だからあんまり会うことはないんだけど、たまたま隣のOLさんに会った時に、貼ってあった公演のポスターを見て、「これってこの劇団の方がやるんですか? 演劇シーズン出るんですね」って言われて。
川口 へえー。
南参 そもそも演劇シーズン知ってるんだっていうのに驚いたし。
ー それなりのものだって思って言ってる感じだよね。
南参 そうなんです。それはすごくありがたい。今、ちょうど空宙空地さんが名古屋から来てるけど、お客さんも入ってて。それは劇団の努力もあるし、手伝ってる札幌の演劇人の効果もあるとは思うけど、やっぱり演劇シーズンだから見てみようかっていう人も一定数でいるんだろうな。
横山 (yhsの青木)玖璃子さんが前に、駅にポスターが貼ってあって、職場の人に「今回は出るの」って言われたって、それってすごい素敵な状況やなって思いました。
南参 ポスターに出たがために役者やってることがバレる人もいますけどね(笑)。うちの劇団員じゃないけど。
15年、20年続けるということ
ー お二人とも劇団を15年、20年とやってきて、この先目指すものはなんですか?
南参 15周年の時に、どうしようかなっていうのがありました。個人的な理由も大きいんだけど、当時の悩みとしては、結構面白いとは言われていたり、賞はもらったりしてるんだけどお客さんは増えない。でもすごく演劇作るのって力がいるし時間もかかる。そんな時に子供もできたから、自分のやってることってどうなんだろう、楽しいけど家族を犠牲にしてまでやることかって思って。
劇団員に、このままお客さん少ない状態では俺はもうやりたくないから、やるんだったらお客さんをちゃんと呼ぼう、でいいものを作ろうって話をして。それでみんな頑張ってお客さんは増えたりしたんだけど、逆にその方針が合わない人が辞めたりもした。そういうのが15周年の時。
そのあとにもいろいろ、いろいろあって。20周年で、好きなことやって大賞もらったり、それの副賞じゃないけども韓国で公演したり、東京で公演したり。(その直後は)なんかね、燃え尽きた。もう満足しちゃったんだよ、もういいなと(笑)。
でも芝居は好きだし、劇団が悪いわけでもないから、どういう風にして存続していこうかなっていうのがあって。何がやりたいことなのかってもう一度考えてみた時に、俺は札幌が好きなので、札幌や北海道に演劇の文化を根付かせたいっていうのがやっぱり一番目標かなって思った。
自分の作品をっていう自己顕示欲はだいぶ薄れてきてるので、何か残せるもの、劇団もそうだし、周りの環境とか、劇団外の後進に何か残せるものがあったらいいなって思うようになった。だから、劇団ももちろんこれからも全然やるんだけど、なんだろうな、俺個人の作品云々よりも残っていくシステムを作っていきたい。誰も継がなかったらそれはそれでいいや、っていうくらいの感じでやっていこうかなって。ガラパは?
川口 そうですね。ここにきて劇団が劇団が若返って逆に勢いとかノリみたいなのが旗揚げした当初に近づいてきてて。この勢いにしばらくは乗っかって進んでいけたらいのかなって思ってます。
僕は南参さんと違って、圧倒的にノータイトルなので。うちの劇団っていわゆる賞みたいな物は、どんなちっちゃなものも、ひとっっつもない。マジで。
旗揚げした当初から周りの劇団と比べられ、ガラパは大したことない長いコントだよねってずっと言われ続け、それをただただ見返したいって気持ちでやってきた。それが火力になって進んでたんですけど、それは今もあんま変わってないですよね。まだ誰にも認められてない気がずっとしてる。褒めてくれる人は確かにいるんですけど、満たされない気持ちの方がずっと強い。もうちょっと満足するところまでやれたらなって思ってるし。
よく言うんですけど、飛行機は壊れながら飛んでいる、っていうのがあるんです。なんで飛行機を飛ばせるようになったかっていうと、昔は絶対壊れないようにと思ってやって失敗失敗だったんですけど、でも、壊れることを前提にしたら初めてうまくいった。その発想が生まれた時にブレイクスルーが起きて空を飛べるようになったみたいな話があって。
それを誰かから聞いたんですけど、劇団も似たようなもんだな、って思います。旗揚げした時はこれが最高最強のメンバーでこいつらでどこまでも面白いもの作るぞって思ってたけど、どんどん入れ替わるし、やめてくし揉めたりもするし。だけど、人間の集まりってそういうもんだなって。壊れていく前提として、そこで新しい形に生まれ変わったと思いながらいけばいいんじゃないかなって思えるようになった。それは多分椎木(樹人/ガラパ主宰・俳優)もなんですけど。なので、もうちょい、突っ走ってみようかな、みたいな気持ちではいますね。
ー 代表と脚本演出が分かれてるのもいいのかもね。
川口 かなり違うと思いますよ。だから南参さんは相当しんどいと思います。僕らは結構ね、交代交代できましたから。どっちか落ち込んだらどっちか割と元気。椎木がダメな時は僕が引っ張ったり元気だって時期が、2年おきくらいにきてたから。一人はしんどいっす。
南参 しんどいよ。
川口 作演して代表もやって劇団の舵取りもして、ってそれは相当すごいですよ。それで20年休みなく続けてって。
南参 20年やって思ったけど、俺が自分の長所だと思うのは、我慢強い(笑)。自分もわがまま言うんだけど、もうちょっと頑張ってみようって思えるのは我慢強いから。(過去の)メンバーでもこいつ辞めたら辛いなっていう人も正直今までいたんだけど、でもなんとかなってきた。
また違うニュースターが現れたり、辞めたけど戻ってきたりとかもある。結婚して子供が生まれたのでお休みしますって女性もいるんだけど、手が離れたら戻ってこれるようにもしたいなって思う、そういう環境ができればいい。
川口 いいっすね、素敵だな。
南参 さっきの飛行機の話みたいに、ちょっとずつ修理しながら、強度を増していくんだろうね。
川口 完璧なものはないですからね。今が完璧だと思っても、時を経てみればそうじゃなかったり。
南参 最初に出会った頃、30歳くらいだったんだけど、30歳になった時に、俺人間として一人前だな、演劇人としても一人前だなって思ってたんだけど、5年くらいしたら全然ダメでしたってことに気づく。今42なんだけど、今からすると30歳くらいって全然若かったなって思うし、もしかしたらここから10年くらい経ったら、今の40歳くらいも若えなって思うのかなって。だから、まだまだ成長はできるなと思うけど。ただね、身体がね(笑)。最近ほんとにガタがきだして。
ー 最後に、3月の公演のPRを。
川口 一応、学園もの同士ということで。僕らは劇団15年目にして、初期の、男子校演劇部みたいなバカバカしいノリと、あと、迷走してる間に培った、多少の人の描き方みたいなのが、いい感じに融合したような芝居です。
すごく笑えるし、人によってはグッとくるシーンもありっていう感じなので、本当に代表作って言えるようになるかもしれないなって言う気も、今の段階ではしてます。
全編博多弁っていうのも今回初めてなんですけど、それがただの味付けじゃなくて、意味のある、作品のエンジンになっているので、それは僕らにしかできないこと。
いい意味で必要なピースが揃った作品になっているので、それが演劇が盛り上がってる札幌の人たちの目にどう映るのかっていうのがとても興味があるので、ぜひたくさんの人に見てきただきたいと思っております。
南参 yhsは『14歳の国』っていうのをやるんですけど。今回は宮沢章夫さんの本で、教室が舞台だけど生徒は一人も出てこない。教師が5人、持ち物検査をするってそれだけの話。事件らしい事件は最後にちょこっとだけあるけど、起きない。教師のどうしようもない姿を見てもらうっていうのが一番ですかね、ほんとは社会的テーマが裏に隠されているんだろうけど、それは今回は考えずに、大人なのか教師なのか、こいつら大丈夫かっていう姿を見にきてもらえればなと思います。
2020年2月某日
演劇専用小劇場BLOCHにて