過去5回再演してきた弦巻楽団の代表作「ユー・キャント・ハリー・ラブ!」が、2019年9月21〜23日にサンピアザ劇場にて、6度目の再演を迎えます。
札幌演劇シーズン2018-冬ではレパートリーシアターにも選ばれ、観客満足度・充実度の高さから伝説と評される舞台となりました。ストーリーや出演者だけではなく、演劇そのものを好きになれる作品です。
今回は、主演をつとめる永井秀樹さん(青年団)と、作演出の弦巻啓太さんに対談をしていただき、お二人にしか語れない作品の魅力や札幌演劇の不思議な現状についてお話していただきました。
より豊かに、フレッシュに!
ー 「ユー・キャント・ハリー・ラブ!」は2018年冬に上演して以来ですので、1年半ぶりくらいの再演となります。稽古がはじまって1週間ほど経ちますが、いまのところ稽古は順調ですか。
永井秀樹さん(以下、永井) 本読みの段階で、「これはいけるな」って思いました。
というのは、今回の僕個人のテーマとして、あまり大げさにやりすぎないというか、もっと緻密に作っていきたいと思っていました。会場も、前回(教育文化会館 小ホール)と違って、サンピアザ劇場やこまばアゴラ劇場(東京)とそんなに大きくないじゃない。
だから、声を大きく張って、というよりは、ちょっとした動きで見せるような方針の方が絶対いいなって思っていたんです。
最初の本読みは勢いでやったんだけれど、そのあとに弦巻くんが「ちゃんと人の話を聞いて、それに反応して」って言ってくれた。そこで、「ああ、俺の目指していることと同じだ」と。
実際に今は細かい稽古が進んでいっています。細かいんですよ、少なくとも去年よりは。去年は弦巻くんも遠慮していたのかな、、、
弦巻啓太さん(以下、弦巻) いやいやいや。
永井 僕の去年のテーマは、スピード感を持ってテンポよく、でした。会場も広かったから、それは間違っていなかったんだろうと思う。
今回は、そうじゃない方針でちゃんと作ろうと思っています。その違いが面白いですね。稽古場が刺激的です。
弦巻 「ユー・キャント・ハリー・ラブ!」はこれまで5回上演しています。すごく好きな作品ですので、やりたいことがたくさんあったり、お客さんを楽しませるための仕掛けもいっぱい用意したい。
でも、そういうことに意識がいきすぎるのではなく、舞台上の役者同士で起こるケミストリーをもっと深めていきたいと思っていました。
これまでも良い評価をいただいたり、楽しんでいただけている実感はありました。しかし、この作品が次のステージにいくためには、外に新しいものを付け足していったり、新しい何かで増強・パワーアップしていくことよりも、いかに出演者5人の密度を濃く深くしていくかに挑戦したいと感じるようになりました。
一方、緻密に作りつつも、これまでのような作品としてのポップなテイストや登場人物の行動の躍動感は失いたくないので、その綱引きです。内側で深めていく作業と、アクションのはっきりとした輪郭をどう両立するか。
永井 そのバランスが難しいので、稽古の中でお互いに探り合っている感覚はありますね。それはそれで面白いんです。
弦巻 そうですね。良い意味で、お互い探っている稽古になっています。去年は、お互いのやることを尊重しあって作っている感じでしたが、いまは「向こうがそうするなら、こっちはこうやってみよう」と探り探り作っています。
永井 そういう意味でも、再演っていいよね!しかも今回、初めて出演者を全く変えないでやるわけでしょ。
弦巻 前回の反省や課題にそのまま取り組めるっていうのは、すごく良いですね。贅沢だなって思います。
永井 再演時によく陥るのが、ちゃんとやりすぎて余分なものが足されてしまい、最初やったときのスピード感や瑞々しさが失われてしまうこと。そうならないようにしたいですね。
弦巻 やっている本人たちだけが充実しちゃうっていうパターンですね。
永井 そうそう。そういう再演はお客さんは見たくないからね。
弦巻 本当、難しいですよね。密度が濃くすることによってより豊かに、でもフレッシュな勢いも絶対に失いたくない。
だって、初恋の話ですからね!変に熟成してても…ね。
永井 同じように楽しいんだけれど何かが違う、っていうのが再演の成功だなって思います。
弦巻 再演の意義でもありますね。今回は前回のキャストと全く同じです。バランスがすごく良いです。キャリアや積み重ねてきた演技の経験、その質も違うんだけれど、不思議と5人が揃ったときに絶妙に合うんですよね。
パッと並んだときに、似たような顔の人はいないのに何だか同じ系統の人間に見える、というか…。そういった良い一体感があります。お客さんにも、この5人のことを「ハリラブ一座」と表現してくれた方がいて、確かにそういう感じあるな、と。
永井 以前の座組がどうだったかはわからないんですけれど、最初会った時に、5人とも違う系統だと思ったんですよ。出どころとか、演技の質とか。
でも、実際に組んでやってみると違和感がないんですよね、むしろやりやすかったりもする。それが不思議で、面白いです。
二足のわらじをちゃんと履く?
ー 永井さんは、これまで多くの地域で劇作りを行ってきたと思います。昨年も今回も1ヶ月ほど札幌に滞在されていますが、他地域と比較して、札幌の演劇環境について感じることはありますか。
永井 比較することはあんまりないかな、どこにいってもやることは変わらないので。
でも、一つ思ったのは、これは良いことなのか悪いことなのかはわからないんだけれど、北海道の特殊性は感じます。本州とは違うんですよ。語弊があったら嫌なんですけれど、別の国みたいな感じがするというか、文化が違う。演劇の質が高いか低いかということではなく、演劇に対する関わり方についてです。東京含め他の地域と、なんだか違うなと感じます。
弦巻 それは、演劇をやっている側の人たちについてですか。
永井 そうそう。でも多分、観る側の演劇に対する向き合い方も多少違うんじゃないかな。
一番びっくりしたのは、春夏秋冬どのシーズンでも年がら年中演劇のイベントが行われていること。これはすごいですよ。他にも、地下歩行空間で演劇シーズンの大きなパネルが設置されていたりだとか、今回の公演でも札幌駅前のビジョンでトレーラー映像が流れたりとか。
これらは、東京だったらありえないことです。いわゆる小劇場レベルの公演があんなにドーンと取り上げられるなんて。初めて見た時は衝撃的でした。
じゃあ、札幌の人たちが演劇だけで食べていけているかっていったら、勿論そんなことないです。その、取り上げ方と実情とのバランスの悪さが、不思議です。良くも悪くも、なんでしょうけど。
以前、ある札幌の演劇人が、「札幌で本気で演劇を続けたいのなら、
でも、札幌は必ずしもそうじゃない。ちゃんと仕事を持った一般的な生活がある上で、演劇もちゃんとある、みたいな。そういう考え方が根付いているんだろうな、と感じます。
今回の出演者の中にも、仕事をしっかりとやって、その上でちゃんと演劇も継続的にやっている人がいるじゃないですか。すごいな、と思います。
弦巻 札幌の特殊な現状かもしれません。本州では、そんな状態が嫌で生活の全てを演劇に費やしたいという人は、東京に行くと思うんです。東京に行くと、舞台に出ることがお金になることに繋がると信じて。
札幌では、すぐに上京とはなかなかならないのかもしれません。バイトしながら演劇優先で生活リズムを作っていくと、生活するのが困難になり、結果演劇を諦めてしまう。それを避けるために、まず仕事をしっかりとして生活を安定させてから、演劇に取り組む時間を確保していく。
僕も若い時とかは、その考えは果たしてどうなんだろうと思っていた時期もありました。仕事の合間に演劇やるってハンパじゃない?って。でも、そういうやり方の人の方が続けられているし、続けられている方がレベルが上がっていくんです。
勿論、今後札幌の経済状況や北海道中の人の演劇に対する考え方が変わって、急に大きな演劇産業が興ったらまた違うんでしょうけれど。そうなる前は、まず生活を安定させてバランスを保っていた方がいいのかもな、と思うようになりました。
永井 他地域でも昼間は仕事をし夜は演劇の稽古、という人は多くいると思います。でも、そういう人たちは、言い方が悪いですけれど、大抵の場合、アマチュアな感じがすごくしちゃうんです。でも、札幌の演劇人たちは同じような生活リズムでも、プロ意識が高い人が多いと感じます。
そういった演劇との関わり方が、決定的な違いかなと感じますね。ちゃんと、二足のわらじを履いている。
あ、あと、いまの札幌演劇の流行りは”エンタメ”だって聞いたんだけれど、その流れにはもうちょっと闘ってもいいんじゃないかな…。
弦巻 え!いや、そんなことはないですよ!!全ッ然、そんなことないです!!
永井 ほんとー?(笑)
弦巻 ないない!!何をもってエンタメとするかによって表現の仕方が変わってくるかもしれませんが、その、いわゆる”エンタメ”ブームみたいなのはないです!
むしろ、もっと”文化している”ものの方がレベルが高いとされていると思いますよ。演劇ってこう(文化的)じゃなきゃね、みたいな。
永井 ああ、そう。逆か。
弦巻 そういう風に僕は感じています。僕は僕なりに思うエンタメを堂々とやろうと思っているし、それが周りにどう思われてもかまわないと思ってやっています。それが、札幌では決して主流ではないということもわかっています。こういうのをやってればウケる、みたいな考えでやっているわけでもないです。
でも、自分が見たいと思うもの、
永井 そうだね。そういった取り組みが主流になってほしいとまでは思わないけれど、札幌に存在し続けてほしいと思います。
弦巻 今回の作品「ユー・キャント・ハリー・ラブ!」では、純度をどこまで上げられるかということに挑戦しています。
エンタメの作品だと受け止められていると思いますし、自分もそこに真っ向からぶつかっていきます。エンタメです!と言って、ちゃんと楽しませる。これは文化として価値があるから、楽しめなくても良いんです、
それでいて、演劇としての純度はすごく高いものを作りたいです。ちゃんと人間同士の兼ね合いで話が動いていく。そうした取り組みを、この数年で新しく学んだことを応用してやっていきたいと思います。
演劇を好きになってもらえる作品
ー 永井さんは、俳優として日頃の生活で心がけていることはありますか。
永井 これがねぇ〜(笑)多分ないんだなぁ〜。
弦巻 あ、そうなんですか!
永井 多分ねぇ。ありきたりなことは言えるけれど、、、ありきたりなことしかやっていないですよ。
弦巻 ありきたりなことって例えばどんなことですか。
永井 人をできるだけ見るとか、身体を大切にするとか、くらいですかね。
僕は実は社会不適合者なんですね。あまり人と話すのが好きじゃなかったり、社会・世間でいろんな人と楽しくワイワイっていうのができないんですよ。側から見ると、やっているじゃんって言われるんですけれど、すごく苦痛で。みんなで楽しい雰囲気になっても、それが苦手でさっさと帰りたい。一人でいたい、というタチなんです。
なぜ演劇をやっているかと言うと、そこに現れるのは脚本がある決まった世界だから、居るのが楽なんです。舞台上の数十分は、みんながルールのもとで動いて生きる。その中で、俳優同士のコミュニケーションや、今日はこういうやり方か、と遊びが生まれる。それが楽しい。そこしか楽しめない。
その面白さに惹かれたから、演劇をずっと続けているんだと思います。
だから普段心がけていることはって聞かれても、う〜ん、ないのかな。逆に、外の世界で生活するために、俳優としての知識を持ち出すことはある。2時間の飲み会は嫌だけれど、俺は「そこに参加している寡黙な奴」で居ればいいんだ、と。そうやって、楽に生かせてもらえている。
どんな人も、社会では日常で演じているんだと思うんです、本当は。演劇のおかげで、それがうまくできるようになっているかもしれない。
だから俳優としての舞台上が、自分にとっての世界であり社会であるのかなって思います。すごくかっこつけているみたいだけれど…!
弦巻 いや、かっこわるいですよ!
一同 (笑い)
ー 最後にこの記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。
永井 エンタメだけれど、エンタメ以上のものになることは間違いないと思います。去年も言ったんだけれど、また、伝説を作ります!
弦巻 新しく、またゼロから作り直しています。これまでの良いところも勿論残しつつ、フレッシュな中に充実した時間を作っていこうと思います。
こんなに見ていて心が踊るような作品もないと思います。演劇を好きになってもらえるような作品だと思います。
永井 入り口は広いけれど、すごい深いよね。
弦巻 お話を好きになってもらうことや、役者を好きになってもらうだけじゃなくて、演劇っていいな!ってところまで引っ張り込める作品です。ぜひ、観に来てください!
参考
弦巻楽団#34「ユー・キャント・ハリー・ラブ!」特設サイト
公演概要
タイトル | 弦巻楽団#34「ユー・キャント・ハリー・ラブ!」 |
劇 団 | 弦巻楽団 |
会 場 | サンピアザ劇場 |
日 時 | 2019年 9月21日(土)18:00 9月22日(日)14:00/18:00 9月23日(月祝)14:00 *受付開始は開演の45分前、開場は開演の30分前です。 |
概 要 | 「恋愛は幻想に過ぎない」が自説のシェイクスピア専門の大学教授・奥坂雄三郎は、ある日、ラジオから流れる気象予報士の声に「恋」をする。初めての感情に戸惑い、周りが見えなくなる奥坂は、これまでの持論を放り捨て、ひたすら恋に向かって暴走する!教え子や助手を巻き込んだ遅すぎる初恋は、果たして成就するのか? 2018年冬、札幌演劇シーズン2018-冬レパートリー作品として上演し、伝説となった弦巻楽団ウェルメイドコメディの決定版が早くも再演! |
脚本・演出 | 弦巻啓太 |
出 演 | 永井秀樹(青年団)、岩杉夏(ディリバレーダイバーズ)、小林なるみ(劇団回帰線)、柴田知佳、遠藤洋平 |
チケット | ※全席指定 【一般】
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Web | 公演特設サイト |
お問い合わせ | 弦巻楽団 090-2872-9209 |