演劇をもっと身近に・斎藤ちずさんが語る住民参加型「温故知新音楽劇」

札幌市西区琴似にある「生活支援型文化施設コンカリーニョ」。演劇やダンスなど、さまざまな数多くの舞台作品を楽しむことができる、札幌を代表する劇場です。

プロの俳優やダンサー、芸術家の人だけではなく、地域の住民によるお芝居も上演されています。「温故知新音楽劇」です。

NPO法人コンカリーニョが2005 年から製作している住民参加型の音楽劇。 琴似八軒地区の歴史を題材としたストーリーが、西区をはじめさまざまな地区に住む住民によって演じられます。

演劇をもっと身近に感じてもらうには、どうするべきか。今回は、「温故知新音楽劇」の生みの親であり、演出を担う斎藤ちずさんに、インタビューしました。

斎藤ちず(さいとう ちず)

演出家、プロデューサー。NPO法人コンカリーニョ理事長。

1962 年、愛媛県出身。北海道大学在学中に北海道演劇研究会にて演劇をはじめ、1986 年には札幌ロマンチカシアターほうぼう舎の創設に女優・会計係として参加。同劇団解散後、1995 年から演出活動とともにコンカリーニョのスペース運営開始。演出家としては年間1〜2作品をつくり、演劇ワークショップ講師活動も行う。

演劇とコンカリーニョ


ー ちずさんが演劇に携わるようになったきっかけを教えてください。

関西で予備校に通っていた頃に、何本か演劇を観て、大学に入ったら演劇をやろうと思って、札幌に来てから始めました。関西にいた頃は、よく週末に阪急ファイブの最上階にあったオレンジルームというところに通っていました。予備校生なのに(笑)。

 

ー ちずさんにとって演劇の魅力はなんですか。

見始めたころはやっぱり、刺激的だったんだと思うんです。 なんか面白いことないかな、ってふらふらしていた若者の心が、掴まれたみたいな感じ。

創るのは面白いですね。みんなで、こうしたら、ああしたらって言いながら自分の考えが形になっていく。演出という立場から役者に指示を伝えると、みんな言うこと聞いてくれるし(笑)。自分の考えが試せますね。

観てるときは…、年間1〜2本は、ああ、やっていてよかったなって思えるような、舞台があるんです。演劇に限らず、ダンスとかもそうなんですけど、なんかこう、感動的な瞬間っていうのが必ずあって。なんでそう思うのかは、よくわからないんだけど。

 

ー 言葉で語るのって難しいですよね。

それは、ステージによって色々ですけどね。なんかこう、普段の生活の中では会えない新しいものに出会う、みたいなことですかね。いつもは動かない心のどこかが動かされるっていうことなんじゃないかなって思います。

 

ー ちずさんにとって、コンカリーニョはどんな場所なんでしょうか。

コンカリーニョは、私の子どもです。地域に演劇を根付かせ、同時に海外との窓口になったらいいなと思ってやってきて、その方向性は間違っていなかったと思うし、そういうふうに進んできたと思う。でも、私が思っていたよりも時間はすごくかかっているな、と。資金的な問題もあるんですけどね。

 

演劇をもっと身近に

ー 演劇を観たことのない人にとっては、札幌でやっている演劇を観に行くのは「敷居が高い」と言われますが、そのような人たちにとって演劇の敷居を低くするにはどうしたら良いと思いますか。

やれることはすべてやってきているのだけれども、 学校教育制度の中に演劇が入るのが、一番手っ取り早いですね。

 

ー 演劇の授業をやるということですか。

そうです。あと、学校での「芸術鑑賞」も今は減ってしまっていますよね。ああいうのは、良質な演劇に触れるいい機会なんですけど。小さいころから演劇に触れていると、大人になっても演劇が近い存在になると思います。

ただ、「飽きない程度」に。適度に演劇に触れることが、大事だと思います。

 

住民参加型『温故知新音楽劇』


ー 「温故知新音楽劇」はどんなきっかけで始まったのですか。

コンカリーニョがまだなかった頃、朝日町にある「あさひサンライズホール」のプロデューサーさんと協力して住民劇を上演したことがきっかけです。彼は町民参加劇をずっとやりたいと思っていて、実現するまでに10年かかった。

いざ始めてみると、みんな予想以上に稽古に来てくれて、どんどん良くなったんです。芝居もとても評判が良くて。それで、私が朝日町から帰るときに、みんな私が劇場をつくるためのお金をくれたんです。芝居一本のおかげで、みんな「ちずさん、ちずさん」と応援してくれる。

コンカリーニョができて、「温故知新音楽劇」を始めました。やってみたら、地域のためになったと思いますよ。身近な人が出演することによって、芝居の敷居も低くなりますしね。

 

ー 住民がお芝居に参加することによって、これからの札幌演劇界にどんな影響がもたらせると思いますか。

それはわかりません。でも、やることによって、演じるだけでなく観ることも好きになってくれたらいいと思います。札幌で普段からお芝居をやっている役者さんと仲間になることで、その人のお芝居も観に行くようになったりするわけですよね。出演者の側にも、そういうつながりができるというメリットがあったりとか。

 

ー 温故知新音楽劇をもっと多くの人に知ってもらうために、どのような取り組みをしていったらいいと思いますか。

回覧板です。地域系のイベントはみんなそれでやっています、若い人たちはネットの方がいいかもしれませんが。

やはり口コミが大事。テレビCM流したとしても、どうでしょうね。それよりは、ピンポイントで、人と人とのつながりでお客さんを呼ぶ方がずっと効果があると思います。

 

ー 温故知新音楽劇の演出をするときはどんな思いでやっていますか。

心がけていることは、その人に半歩先の課題を与えてあげることですね。人によって、課題への向き合い方は全然違って、それを見ていて面白いなって思いながらやっています。

 

ー 演劇を見たことがない人に向けて一言お願いします。

ぜひ一度、劇場に足を運んでみてください。あなたの人生を変える出会いがあるかもしれません。

9月21日
コンカリーニョ事務所にて