可能性の「点」を線で結ぶ演劇を|柴田智之一人芝居 「寿」

2016年夏、札幌演劇シーズンで初めての一人芝居として上演された、俳優・柴田智之の「寿」が来週末、札幌で再演されます。

2月の福岡公演を控えての1日限りの札幌公演。2年半ぶりに同作に取り組む柴田さんと、生演奏で参加する烏一匹さんにお話を伺いました。

公演情報 柴田智之一人芝居 「寿」

一から作り直すべきだなと

「寿」舞台写真

ー 2年半ぶりの上演となりますが、改めて稽古を始めていかがでしょうか。

柴田智之さん(以下、柴田):とりあえず、いっぱいやっているんですが(2013年の初演以来、札幌、江別、函館、青森などを巡演)、残っている映像を見るってことをしていなかったんで、全部見てみたんです。初演のよかったところと、よくなかったところ、2016年の札幌演劇シーズンで上演させてもらった時のいいと思ったところと、疲れちゃってるな、と感じたところ。だから両方の良いところを取って、一番良い形で札幌と福岡を迎えたいというのが念頭にあります。

よかったところっていうのは、初演の頃はすごくテンポが良いっていうのと、フレッシュな感じがありました。上演を重ねて、最終的に札幌演劇シーズンの時(2016)には、きちんと「型」で見せようっていうポイントはきれいに安定した形で出来ていたと思います。いろいろアイデアを導入してみた結果、ここは改善すべきなんじゃないかなっていうポイントが見えてきました。

 

ー 稽古拝見しましたが、一から作り直しているような感じですね。

柴田:そうですね。むしろそうすべきだなと思っています。

 

ー 今日の稽古では音のことを細かく話し合ってらっしゃっいましたが、音楽が随分と変わるのでしょうか。

柴田:大幅に、はい。烏くんが札幌演劇シーズンの時に、いっぱいアイデアを持ってきてくれた。作品についていろんな話をした中でイメージしてもらった音楽、メロディ、イメージを乗せてくれてたんですが、今ここでやってる自分の芝居っていうのと、ちょっとぶつかってるんだろうなみたいなのを感じてたんですね。でもやってみなきゃわかんないしやってみよう、というところでやってみた結果を見て、芝居に合わせた音楽っていうよりも人物に寄り添った生活音を意識して作ってもらったら、お互いの創作がぶつからないんじゃないかなって。あとは今日みたいに(稽古しながら)いっぱい話して、出来てくると思います。

烏一匹さん(以下、烏):多分、今まで一緒にやってきて、芝居の見え方とか変わってきたんですね。自分がどう表現するかとか、柴田くんがどう表現するかっていうより、二人でどう表現するかっていうのを大事にしたいなと。だから柴田くんの声がちゃんと伝わるように、ちょっとやり方を変えます。

 

ー それは前回公演の後、他の作品でも共に創作をしてきた経験から変わってきたということですか?

柴田:そのようなところからこのアイデアになっていると思います。芝居の所作にあった生活音。そういう動きの中にある音を掻い摘むような、つまりそれが効果として出るんじゃないか、というところの効果音になっていると思います。

 

お客さんとの出会いが楽しみ

稽古の様子

ー1月26日に1日限りの札幌公演を終えた後は、座組みの目標の一つでもあった福岡の公演が控えています。県内外から8団体が参加する「福岡きびる演劇祭〜キビるフェス2019〜」に参加し、3ステージが上演されます。福岡公演をやりたかった理由について改めて教えてください。

柴田:ある劇団の全国ツアー公演に誘われたのに行けなかったことにあまりにもがっかりして、じゃあ自分でやればいいんだって思ったのが最初で。「寿」の初演の時に集まってくれた仲間に行きたい場所を聞いて、そこに行って公演をすることを目標にしました。

(柴田さんは自身のルーツである函館を、烏さんは祖母が暮らす青森を挙げ、いずれも上演済み)

舞台監督の忠海勇は、「福岡にかつてお遍路を一緒にした友人がいるからいつか行ってみたいと思っていた」と。柴田があまりにもこの話を押すので、彼はプレッシャーじゃないけど、そういう思いを抱えてるんじゃないかって心配してはいるんですけど。

烏:一番遠いところ言ったからね。

 

ー 先日、「キビるフェス」の記者会見のために福岡へ行ったそうですが、福岡は初めてだったんですか?

柴田:初めてでした。すべてがびっくりでした。すごい都会だからちょっとめまいしちゃった。飛行機の時点で「おいおい町の中に降り立っていくじゃないか」、とびっくりしました。(参加団体の方々との)出会いもとっても楽しかったですね、いろんな人に会って。

 

ー 福岡で楽しみにしていることはありますか?

柴田:いつでも本番は楽しみですけど…。弘前でやった時もそうですけど、土地によってお客さんの感想がこんなに違うのかっていうくらい違ったんですよね。どんなお客さんとの出会いがあるのか。どれくらいの人に見ていただけるのかっていうのはあるけど、それは関係なしに、お客さんとの出会いが楽しみだなっていうのがありますね。

 

札幌で演劇を続ける理由

インタビュー中の様子(左から、柴田さん、烏一匹さん)

ー 札幌で演劇を続けている理由を教えてください。

柴田:なんで札幌なのかって言われると…。長らく、僕は引越しがとても多かったので、あまり郷土感とか、ふるさととかそういう意識がなくて。とにかくこの国が僕に合わないんだってずっと思っていたから、日本を出てどっか自分に合う国を探そうって思っていた時期があったんだけど。

ある日をきっかけに、自分のふるさとが北海道なんだって思ったことがあるんです。それがすごい驚きだったんです。そこに帰っていけばいいんだって思った。家があるから出かけられる、帰っていく場所がないと出かけることもできないって思っているんですね。僕はふるさとをやっと見つけたから、これでどこかにでかけることができるんだって思った。それが札幌にいる理由、ここが僕のお家だ、ふるさとなんだっていうのを見つけたからですね。

 

ー どうして演劇という表現を選んだのでしょうか。

柴田:やろうと思ったことは全部やりましたね。遠回りしてまた舞台っていうところに戻ってきたっていう感じです。

絵にしろ踊りにしろ音楽にしろ、どうしてひとつに絞れないのかって苦しんだ時間があるんですよね。でもそれは単なる可能性の「点」であって、これをみんな一緒にしたものってなんだろうって、点を線で結ぶってことをすごく意識していた時間があります。それは「寿」ができる前の話です。点を線で結ぶってどういうことなのかなって考えて辿り着いたもの、それを僕の演劇って呼んでいいんじゃないかって思ったんですよね。

なぜ演劇っていうか、自分の可能性をひとつに結びつけて発表できるスタイルが演劇だった。音楽も絵も踊りも、舞台のどこにどう立って喋るかっていうのも「絵」だから。総合芸術的、じゃなくて総合芸術ですよね。むしろそうじゃないと面白くないと思うんです。そういうことをいろいろ考えて、独自の感じですけど、きっとすごく。今は、流行り廃りがない、自分のやりたいことを徹底的に追及してやり続けるのがすごく大切だと思ってますね。

 

ー 最後にこの記事を読んでいる人にメッセージを。

柴田:毎回毎回ですけど、超特別なんでね。初演から6年、間は空いているけど、何回も見てくれる方がいるからこそ、また新しく見られるような形を追求しています。

自分で介護のことを振り返って語ろうとすると、とても辛かったり重いっていうことばっかり、言えば言うほどフューチャーされちゃうような気もするんだけど、決してそれだけじゃないんだよっていう絶妙なところを感じてもらいたいというのもあるんです。改めて思うけど、マイナスって感じられるようなものを一身に受けてプラスのものにかえていく魔法のような仕事をしているような気がする、介護っていうのは。

6年っていう時間が経って、一人づつ集まってくれた座組みのメンバーの、やりたい場所に行って公演すること達成する、一つ転機を迎えてるんだろうなって思っています。どう変わっていくのかは僕にもまったくわからないことなんですよね。とにかく、思い切りやり遂げたいっていうのばっかりなんだよな。なんて言えばいいんだろうね。

一生懸命やって、見てくれる人に楽しんでもらったり、介護の現場みたいなものの現状を伝えつつ、感動してもらいたい、僕自身も感動したいっていうのもあるし。要するにぜひ見て欲しいんです。毎回がそういう公演ですけど。

烏:なんでお芝居をやってるのか、みたいな話ですけど、僕は音楽をやっているけど、ずっとやめるって考えたことがなかった。だけど最近、気持ちでやるやめるはないけど、いつか肉体に終わりがくるなって思いがある。そう思ったら前より本番ひとつひとつ、ずっと続けてくつもりだけど、これで終わりかもしれないなって思うようになりました。なので、これで終わりかもしれないので来てください(笑)。

柴田:一回づつがね。そういうことに限るよね、ライブでやるっていうことは。

烏:いつも次のことなんとなく考えるんだけど、最近考えなくなった。これで終わりかもしれないって。

柴田:やればやるほど次がなくなっていくんだよな。

烏:そんな感じ。。今回こうだったから次ああしよう、みたいな考えがどんどんなくなって。もちろん次が決まったら前回を振り返るけど、一つ終える時に次のことは考えていない。繋がってはいるけどそういう感覚があるよね。

公演情報 柴田智之一人芝居 「寿」


取材・執筆 小室明子(ラボチ)