今月の公演情報

世界一わかりやすい『ペスト』|札幌ハムプロジェクト・ダンボールシアター

パンデミックによって大きく変化してしまった世の中。不安に駆られる日々を過ごす人々は、何を考え、選択し、生きていくことができるのでしょうか。

アルベール・カミュの小説『ペスト』はそんなことを考えさせてくれる世界的ベストセラーです。

今回は、札幌ハムプロジェクトがこの名作を全てダンボールで表現した作品 ダンボールシアター『ペスト』 をご紹介します。

全編YouTubeで観ることができる映像作品です。作品の魅力と創作の経緯について、作・演出のすがの公さんへインタビューしました。

創造力がゴミに命を吹き込む

ー ダンボールシアター『ペスト』は、アルベール・カミュの小説を原作とした人形劇ですが、この作品を選んだ理由を教えてください。

すがの公 原作『ペスト』は、COVID-19のパンデミックが始まってから世界中ベストセラーと知って読んだんです。ハムプロは演劇と居酒屋をやってるんですが、そのどちらも「不要不急」とされた頃でした。みんなどう動けば良いのか困っていました。

読んでみると何か光が見えたような気持ちになりました。70年前の物語のさまざまなシーンが、現在のコロナ禍の世界と重なります。主人公たちがこの不条理をどう乗り越えるか考えながら物語に触れることがよかったんだと思います。

でも全部読むには長いんです(笑)。ロックダウンまでに結構かかります。たぶん世界中の人が買ったはいいけど途中で挫折していると思いました。

それで、もうこれ劇にできないかなと思って。新潮文庫に相談して、翻訳の宮崎氏に連絡をとっていただいて、許可を得て作りました。

 

ー 劇だと小説より短い時間で物語に触れることができますね。何故演劇ではなく人形劇で上演することになったのでしょうか。

人形劇にしたのは、やはり海外の物語を日本人の顔でやれないと思ったからです。僕は、もともと外国人を日本人がやる劇が得意じゃない。日本語なのは吹き替え的に解釈できるんですけども、顔見ちゃうと「え、その日本顔でガルシア?」とか思っちゃうんです(笑)

それで悩んだ挙句、人形を作ろうと思いました。鼻を高めにして。結局80体以上作るハメになったんですけど。

 

ーなるほど。では、全てをダンボールで表現しようと思った理由は何ですか。

好きなんです、ダンボール。どこにでもあるし、基本的にゴミなんですが。でも創造力がゴミに命を吹き込み、物語を生み出すなんて、ちょっと感動するじゃないですか。

それで、ダンボールシアターという団体をプロデュースしました。そのスキルを『ペスト』にも活かして、今回の映像ができました。

ダンボールの多層構造は立体の造形に向いていて、結構なんでも作れます。加工を重ねると驚くほどの強度を見せます。椅子もできるらしいんですよ。細かい装飾や、簡単なギミックも作ることができるので、映画のような、スペクタクルを描くこともできます。

カッターと糊と創造力・想像力で、誰にでも感動が生み出せる。子どもたちが「自分でもできるかもしれない」とか思ってくれたら素敵だなぁ。

2019年に「いいだ人形劇フェスタ」に参加してきましたが、本番が終わったあとに、人形好きの大人や子どもたちが僕らのダンボールを眺めて触って写真を撮ってて。そのことにとても感動しました。

 

ー ダンボールで表現することの面白さ、また難しさは何でしょうか。

ダンボールに彩色することは考えていないので、色彩が一色になります。たぶん、動きも普通の人形劇より少ないと思います。

話とセリフの邪魔をしないように見せようとすると、最小限の動きになります。それが人形劇的に良いのか悪いのかはわからないんですが、近年はそれすらも味になっていると、勝手に感じています。

お客さんの想像力に任せる分、キャラクターたちの表情が豊かになります。それでも、ダンボール人形たちはいい顔するんです。まゆひとつ動かさないのに。まぁ、動かせないんですけど…(笑)

 

世界一わかりやすい『ペスト』

ー 本作は、韓国春川人形劇フィルムフェスティバルにてノミネートされました。韓国の人形劇祭に応募した理由は何ですか。

元々ダンボールシアターは「ダンボールで世界を目指そう」と立ち上げられた企画でした。そして、2019年に参加させていただいた「いいだ人形劇フェスタ」の方がSNSであげていた情報を見て応募してみました。

これを機会に「世界の方に観ていただけたら嬉しい」と思ったことがきっかけです。

我々は演劇で韓国公演をすることもあるので、そのときに知り合った韓国の方にも観てもらえたらと思いました。言葉の壁はあるんですが。

 

ー 劇場公演のリスクが高い日々が続いています。演劇をはじめとした「文化芸術の危機」とも思われるような現状ですが、コロナ禍における作品づくりに関して、一芸術家として何を思いますか。

「危機」にぶつかったと思えばそうかもしれませんが、我々はコロナ以前から、普通の演劇公演以外の別の形を探していたので、そんなに慌てませんでした。少し早まったなという感じ。

動画作品になると途端に海を越えやすくなると感じます。夢のあることができるとも思います。

お客さんの前で何かを披露できた平時のありがたさを知ることもできました。

 

ー 最後に、記事を読む方に何かメッセージがあればお願いします。

世界一わかりやすい、1時間半で終わる『ペスト』です!是非観てください。

先の見えない不安な日々が続く中、アルベール・カミュの『ペスト』に取り組み、発表できたことで救われた気持ちがたくさんありました。

不条理が他人事でないということを知った今、『ペスト』というフィクションを通して、この不透明な未来を想うことができると思います。

そして、同じように漠然とした不安に立ち向かっていくダンボール人形たちが皆さんにも愛されたら、すごく嬉しいです。

参考 ダンボールシアター公式サイト

 

作品はこちら

第一部


第二部


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