経験者と未経験者が一緒に「舞台に立つ」|弦巻楽団演技講座の魅力とは

シェイクスピアの作品を観たことはありますか?

「なんだか難しそう」「古いお芝居でついていけなさそう」なんて考えている人も多いのではないでしょうか。

そんなシェイクスピアの四大悲劇のひとつ、『ハムレット』に、弦巻楽団演技講座「舞台に立つ」が取り組みます。弦巻楽団主催のワークショップである「舞台に立つ」に出演者として34人が参加します。

今回は、弦巻楽団代表の弦巻啓太さん、講座で初めて舞台作りに取り組む岩波岳洋さん、そして出演者として参加する俳優の遠藤洋平さんの3名に対談をしていただきました。

演出家、経験者、未経験者という立場の違う3人が考える「舞台に立つ」の魅力に迫ります。

 

演劇の「習い事」

「舞台に立つ」について語る弦巻さん、岩波さん、遠藤さん(左から)


岩波岳洋さん(以下、岩波):
僕がこの講座に参加した当初は、演劇をやったことも、しっかり観たこともない状態でした。まったくの好奇心だけで演劇を始めたけれど、すごく楽しめる場所だな、と。興味ひとつで始められて、本格的に学べるのは面白い。

遠藤洋平さん(以下、遠藤):じゃむさん(岩波のあだ名)は全く演劇に触れたことのない状態から演劇講座を始めたんですか?

岩波:そうです。それまで舞台に立ったことがあるのは小学校の学習発表会くらいです。

弦巻啓太さん(以下、弦巻):じゃむくんは弦巻楽団演技講座2017年度の1学期から受けてくれていたんだよ。

「舞台に立つ」は、弦巻楽団主催の演技講座の第3学期目のことを呼んでいて、1学期と2学期で演劇を体験して、3学期は本格的に舞台を作ってみましょうっていう意味合いなんだよね。1学期と2学期も作品作りはするし、発表もするんだけれど、それはだいたい稽古場でのアトリエ発表なんだ。

毎年そうやってたんだけど、今年度だけは2学期なのにサンピアザ劇場で立ってみるっていうちょっと乱暴な形だったんだ(2017年11月上演『リチャード三世』サンピアザ劇場にて)。

じゃむくんはやってみてどうですか? 戸惑いはなかった?

岩波:いやぁ、始めた時は真っ白な状態だったので、ああこういうものなのかって。この演技講座がベースになっているので戸惑いはなかったです。いい意味で何も知らなかったので。

弦巻:これは理不尽なんじゃないかって感じたことは?

岩波:ないですね。

弦巻:それはこちらとしては嬉しいことだね。お芝居やったことのない人が「こんなやり方はないんじゃないか」って思っていたら、講座を開いている立場からすると嫌だなって。

お芝居って色んな人が色んなやり方でやっているから、「うちのやり方に従わない人はやめてってもらう」みたいな厳しいところもあるような気がする。そうじゃない環境にしていきたいとずっと思っていたから。じゃむみたいな今まで演劇やったことのない社会人が、仕事しながら演劇を続けてくれたらいいなと思ってやっています。

遠藤:この演技講座、「習い事」っていう感覚がすごくいいなって思ってるんです。他のところだったら「新人」みたいな扱いをすることが多いんだけど、ピアノや習字と同じように演劇の習い事があって、発表会としてシアターZOOとかサンピアザ劇場の舞台に立てることは貴重だと思います。

弦巻:そうだね。そもそも演技講座をやっていく方針として、タレント養成所みたくするのではなくて、役者だけでなくて演劇づくり全体を味わってもらう、スタッフのお仕事とかも一緒にやりながら身につけてもらうって感じだから、来る人を選びたくないんだ。もちろん参加者の中に温度差はあるかもしれないし、見ている先も違うかもしれないけれど、それでも一緒に作業出来ることこそ素敵なんじゃないかと。

演技講座を始めてもう5年になるけど、社会人が参加してくれるようになったのは嬉しい成果だね。ありがたいことに今の弦巻楽団が持ってる恵まれた環境を、一般の方に、演劇に興味を持ち始めたような人達にも活用してもらいたいので、習い事みたいに開いていきたいんだよね。

 

本番を経験するということ

講座受講生と一緒に劇作りに取り組む 遠藤洋平さん


弦巻:
遠藤君は何度もお芝居やっているからわかると思うんだけど、「本番が一番成長する」ってよく言われるんだよね。じゃむくんはそう感じますか?

岩波:確かに、本番は稽古でやっていることと同じことをしてるはずなのに、全然違ったかもしれないです。終演後は、すごい達成感がありました。あと、初日と千秋楽では立ち上がったものが全然違うな、という印象も受けましたね。

遠藤:なんか、大きいことやったなって思いません? 稽古場ではなかなか感じづらいかもしれないんだけど、劇場にはお客さんが一つの空間に押し込められていて、お芝居が全部終わったときに「特別なことをやったな」っていつも思うんですよ。その快感みたいなものでお芝居やってるところはあります。

岩波:それは前回やった時に感じました。自ら選んで参加したのに、本番前日になって緊張しちゃって、「何でこんなことをお金を払ってまでやっているんだろう」って思っちゃって(笑)

遠藤:いやほんとにね、言葉を選ばずに言うと、演劇って趣味としてポンコツだと思うんですよ!!

全員:(笑)

遠藤:だって稽古のために2か月間も束縛されて、成果が出るのは数日間でしょ? その前には夜まで箱詰めされて、めっちゃ台詞覚えて、なんだか辛くなるし(笑) そんな趣味、ポンコツすぎないかって思うんです。

弦巻:気持ちいい瞬間が少なすぎるよね(笑)

遠藤:割に合わん!!

弦巻:やってるうちの9割苦しい、みたいな。

遠藤:だから、こんなにたくさん「演劇やりたい」って社会人から中学生まで集まることはすごいなって。もしかしたら僕ら俳優よりもその短期間の熱は大きいんじゃないかな。

弦巻:それはね、あると思う。「舞台に立つ」参加者の中には、「演劇全然知りません」って人もいるけれど、その人は舞台に対して不純かというとそうではない。本番にかける情熱が低いかっていうとそうではない。だからすごく面白い現場だし、色んな人がいるっていう面では、他の劇団や養成所とは全く違う現場になっているかな。今札幌で女優として活躍している池江蘭さんや塩谷舞さんなど、これに関わってくれた人が今は別の現場で活動しているということはすごく嬉しいです。

弦巻:遠藤君は2学期の『リチャード三世』を観てくれたけど、どうでしたか?

遠藤:僕は学生演劇から始めて、全くの素人の脚本・演出に操作されるようにやっていたんだけど、いきなりシェイクスピアをやるっていうことはものすごいステータスになるだろうなって。武器になるっていうか。「私はシェイクスピアの『リチャード三世』に立ちました。」って、そんじょそこらのお芝居をやってる人たちと比べても、とてつもないアドバンテージになるのではって思うんです。

弦巻:そうだね。それを今回は『ハムレット』に取り組むわけだよ。演技講座は来る者拒まずだけれど、去る者も拒まずでありたいんだよね。このあとも全然別の現場でもやっていって欲しいなって思っている。そういう時に、ここで得た良いアドバンテージを大切にしてくれればいいなって思っている。

 

経験者と未経験者


弦巻:
未経験者と経験者を混ぜ混ぜにやっていると、相互に学ぶことが絶対にあるんだよね。がむしゃらがいいとは決して思わないんだけれど、未経験者だからこそ、「今ここで舞台が作り上げられようとしている瞬間」を生み出せると思うんだよね。

でもそれだけじゃやっぱりエンターテイメントとしてダメだから、技術は経験者から学んでいく必要がある。ずっと経験者に参加してもらいたいと思っていたの。経験者と未経験者の相互の受け渡しは札幌演劇に足りない部分だと思っている。

なかなか、未経験者の中に混じって自分からやりたいですって経験者の人たちが現れなくてね。それもむかつくんだよね!(笑)「自分はもう次元が違うぞ」とでも思ってるのかよって!(笑)

昨年度に『コリオレイナス』を上演した時は深浦佑太に参加してもらって、今回は遠藤君や村上義典も来てくれたんだけど、本当は札幌で既にお芝居をやってる人にもっと参加してほしい。見学だけでも来てほしいお芝居ならではのエンターテインメント要素である、「目の前で何が起こるかわからない状況を共有できること」を再確認できる場です。そこが魅力です。

どうですか遠藤君、今やってみてて。今回の参加者の中ではベテランの域にいるわけだけれど。

遠藤:ベテラン!?

弦巻:そうだよ。もう29歳だから、あと1年もすれば若手って言っちゃいけなくなるんだよ。

遠藤:深浦さんとも最近その話をしてるんです。経験者としてアドバイスする立場になると、まるで自分が言ったことが全て正しいみたいに聞こえちゃうじゃないですか。そういった難しさも学んでいます。どのような言い方をしたら、僕の言葉が「正解」じゃなくて一つの判断材料となるのか、というか…。

弦巻:俺もね、最近は「たとえ間違いでもいいや」って思いながら発言しようと思ってる。俺が何か間違ったことを言ったとして、誰かが「それは間違いですよ。正解はこれです」って言ったのなら、それによって正しい情報が増えるんだから場にとってはいいのかなって。だから最近はどんどん小恥ずかしいことを言っていこうとしてて(笑)

遠藤:経験者が何とかしなきゃ、という欲が出がちな環境ですね。

弦巻:うんうん。そこから周りのみんなが「そうじゃないですよね」って言える環境にしていくことが大事かな。弦巻楽団の活動で心がけているのは、誰もが発言できる環境に気付いたらなっていること。実はそのために細かい小細工をすごく仕掛けているんだよね。それは、僕の存在をいかに消すかってことでもある。最近は、放っておいてみることにしてる。役者は自分で考えないと絶対に成長しないから。

遠藤:経験者だからってお芝居が上手いとは思っていないんです。大して変わらないなって。そのこともうまく伝えられる方法を模索してるんですけど。

弦巻:もちろん、台詞がはっきり聞こえるとか、技術の差はあるけれど、基本そんなに変わらないからね。でも、自分から色々考えて挑戦する人は変わるね。そういう人は、続けていれば自分で色んなものを吸収していく。

 

34名で『ハムレット』を上演


弦巻:
はい、じゃあ遠藤君、『ハムレット』の魅力!

遠藤:『ハムレット』の魅力!…昔の話なのにとっても現代的です。すごい人間臭いです。

弦巻:シェイクスピアの演劇っていろんなジャンルがあるけれど、『ハムレット』って夜の2時間ドラマでやっていそうな、こじれた家族の物語が根底にあって、時代性を感じさせないんです。王子だからとか、外国だからとかほとんど無い。登場人物の身の上に起きている問題は、現代でも普通に起こりそうなことなんだよね。観に来てくれた人は、『ハムレット』って、『シェイクスピア』って、こんなに自分に馴染むものなんだって驚きを持てると思う。

じゃむくんは一番の見どころは何だと思いますか?

岩波:登場人物の本音や根っこを探りながら、推理みたいに見ると面白いです。

遠藤:今の漫画とか映画とかを好きな人は『ハムレット』も好きかも。「探りあい」って大好きじゃないですか、日本。『ハムレット』もそういうお話しだから、割とタイムリーだと思います!

 

稽古の様子

 

予告動画

 

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tsurumakigakudan@yahoo.co.jp、090-2872-9209(弦巻楽団)