【稽古場夜回りインタビュー】yhs「忘れたいのに思い出せない」

女子大生が「札幌演劇シーズン2017-夏」参加劇団の稽古にお邪魔して、作品の魅力に迫る企画「夜の稽古場参観日」。

今回は、7月22日より上演する yhs「忘れたいのに思い出せない」の稽古場に行ってきました。

2時間目/舞台裏の仕事人たち




【舞台裏の仕事人たち】音響・橋本一生さん

 

生と死が近い家族の物語


ー はじめに、yhsという劇団について教えてください。

演出 南参さん(以下、南参):1997年に旗揚げしたので、今年でちょうど20周年を迎える劇団です。高校を卒業したあとに、高校演劇の仲間たちや大学の演劇サークルの人たちと一緒にはじめました。

高校演劇ではあまりできなかったコメディやコントのようなものを中心にやっていましたが、最近はその都度やりたいものをやっています。何系みたいなのってあんまりないかもしれないです。今回やる『忘れたいのに思い出せない』はオーソドックスな会話劇に近いんですけれど、演劇シーズンで前にやったことがある作品とかも結構ジャンルがバラバラです。

 

ー 今回上演される『忘れたいのに思い出せない』のあらすじを教えてください。

南参:北海道のとある町で、おばあちゃん、その息子、孫娘の3人家族が舞台です。おばあちゃんが認知症になってしまうのと同時に、孫娘が妊娠するというところから物語は始まります。

おばあちゃんと孫娘に挟まれる息子(孫娘の父親)や、家にやってくるホームヘルパーの職員、昔亡くしたおばあちゃんの旦那さんが出てきたり。認知症の世界と現実の世界がごちゃ混ぜになっていったりします。

生と死が近い家族の物語を描く作品になっています。

 

ー 役作りにおいて、挑戦している課題があれば教えてください。

出演 曽我夕子さん(以下、曽我):私は妊婦の役なのですが、妊婦になったことはないので、身体の状態や感じ方わからなくて難しいです。妊婦ならではの気持ちの波とか。物語が進むにつれてどんどんお腹が大きくなっていくので、シーンによって動き方や佇まいが変わっていくのが大変ですね。

出演 福地美乃さん(以下、福地):私はおばあちゃん役です。おばあちゃんの役をやるということに加えて、認知症の人をやるっていうのが大きな課題です。よくコントとかである、”おばあちゃん” の姿勢ってあるじゃないですか。それを今回の作品でやっても全然意味がないと思って。どうしたら30代の私がリアルに年老いた人になれるか。

昔一緒に出演した方で、おじいちゃん役をやった方に「どういうことを意識したんですか」って聞いたとき、行動に制限をかけるといいよって教えていただきました。それがすごくヒントになりました。

稽古の中で、色々試している段階です。動きや声や息づかいなど、かなり演出家のダメ出しを期待してやっています(笑)。

 


ー 初演と比べて意識して変えたところ、違いがあれば教えてください。

南参:そもそもこの話は、7年前、自分のひいおばあちゃんが認知症になって、同時に僕の奥さんが妊娠したという経験をもとに書きました。もちろん自分は妊娠できないので、傍目から見たことしか書けないんですけれど。

今回はそれから5、6年経って、僕の記憶も前に比べて薄れていっています。初演は僕のおばあちゃんを完コピさせるつもりだったんですけれど、今回はそうはいかない。そこのところを、どうやって折り合いをつけていくかが問題ですね。自分のおばあちゃんに対する記憶も確かじゃないけれど、よくある「おばあちゃん像」にはしたくない。何がリアルなんだろうっていうことを、稽古の中で色々試しながら追究していっています。

福地:初演のときは、近所に実際に認知症のおばあちゃんが住んでいたのでモデルにしていました。でも、もうそのおばあちゃんも亡くなってしまって。もっと自分に役を落とし込まなくちゃいけないなと思いました。

今回は、自分自身で、「老いる」や「認知症である」を感じながらやりたいという気持ちが強いですね。

 

ー 今回は再々演とのことですが、この夏に上演するに至ったきっかけを教えてください。

南参:この作品はまたやりたいと思っていました。また、自分のおばあちゃんが亡くなって何年か経って、もう少し客観的に演出できるかなと思って。

この作品は、先ほども言ったように、私小説じゃないけれど、私演劇というか、そう言ったものなので、確固たる社会的メッセージみたいなものはそんなにないんです。

当時、演劇や仕事で忙しくてなかなか会いに行けなかったり、会いにいくとだんだんコミュニケーションが取れなくなっていくのが怖いと思って書きました。この作品は「認知症」だけでなく「妊娠・出産」も大きなテーマです。人ってこうやって死ぬんだ、人ってこうやって生まれるんだという、格好良く言えば生命のサークルみたいなものを感じました。

でも、いつかは誰でもそうなる可能性がある。周りの人もそうだし、自分自身に降りかかってくることもある。

このお芝居を観て、確認してほしいです。自分だったらどう思うかな、どうするかなってことを。社会派だねって言われることもあるんですけれど、もっと個人的なことなんです。

 

札幌のウリとしての演劇シーズン

ー yhsとして札幌演劇シーズンに参加するのは、今回で何回目ですか。

南参:5回目です。2013-冬『ヘリクツイレブン』、2014-夏『つづく、』、2016-冬『しんじゃうおへや』、2016-夏『四谷美談』、で今回2017-夏『忘れたいのに思い出せない』。

 

ー 5回参加して感じる、札幌演劇シーズンの良いところと、これから期待するところはありますか。

曽我:1ヶ月間毎日どこかではお芝居が上演されていて、チカホでも宣伝されていて、空いた時間に演劇観てみようかなってなりやすいことは良いところですね。軽い気持ちで足を運んでいただけるんじゃないかなって思います。

福地:参加する側としても、毎日劇場に通うっていう習慣が味わえて嬉しかったです。自分の劇団の主催公演で1週間続けて公演することは少ないので、すごく良い経験になります。

割と年配の方が、テレビや道新などのメディアを通じて観に来てくれるようになったのもすごく嬉しいですね。

継続してほしいって強く思います。

あとは、お客さんがさらに増えるといいですね。札幌市民みんなに「札幌には札幌演劇シーズンがあるんだ」って知ってもらえたら良いですね。札幌のウリとして、演劇シーズンが認知されたら嬉しい。雪まつりみたいに。

曽我:劇場ももっと認知されたら良いですね。コンカリーニョがどこにあるのかみんな知っていて「今こんなのやってるんだってー」って話題に上がるような。

南参:今は1団体で1週間の公演ですけれど、それが2週間、3週間、、1ヶ月とのびていったらいいですね。1ヶ月間毎日、5団体がやるとか。例えば、今回で言えば、最初にyhs観てもらって、次にパインソー観て、そのあとにもう一度yhs観てもらったり。そういう、作品同士の相互効果がより出るといいかなって思います。

あと、札幌演劇シーズンは今札幌の劇団が中心になって出ているんですけれど、シーズンに出たいがために札幌に劇団ごと移住する人たちが出てくるといいなって思います。

 

ー 演劇を札幌でやることの意味は何でしょうか。東京ではなく、札幌でだからこそできることはありますか。

南参:演劇一本で食べていこうとするには、現在の札幌では難しいところがあると思います。僕は、演劇だけで食ってくぞっていうのはそこまでなくて、札幌に住んで、その上で何ができるかを考えていました。

札幌は気候風土が他地域と違うところがあります。雪が半年近く積もっている。歴史がそんなに深くない。だからこそ、考えられることがあったり、人間関係のでき方が違ったりします。

全国的に見たら、北海道札幌は、そういう意味で珍しい地域なんじゃないかなって思います。僕たちにとっては当たり前なことでも、感覚的なものが違ったりする。そういったものが作品にも現れてくるんじゃないかなって思います。

 

 

ー 現在の日本や世界の情勢に対し、演劇はどう関わっていると思いますか。社会に対してメッセージを発信するツールとして、演劇にはどのような力があると感じますか。

福地:劇場って、作品を観にいく場所であるんですけれど、何というか、「自分と向き合う場所」でもあるんだなと感じています。作品を観て、どう生きたいかを考えられる場所。

脚本で作られた架空の世界に、役者が人間として現れたとき(お客様が役者を、そこに生きる人間と感じてもらえたとき)、何か生まれるんじゃないかなって思います。この街で、この国で、自分はどう生きるのかということを考えてもらえるんじゃないかなって。

曽我:私にとっては、周りにいる方がお芝居を観てくれてどう感じてもらえたかが大事です。お芝居を観てくれた悩みや迷いを抱える方が、ちょっとでも日常を変えてくれるきっかけとしてお芝居を観てくれたら嬉しいです。ちょっとずつ幸せになってくれたらいいなーって思ってます。

南参:もちろん、映画や美術や音楽など、他の分野でもできることは色々あると思うんですけれど、演劇の良さっていうのは「生々しさ」だと思います。「そこに人がいる」っていうのがすごく特徴的です。

10年くらい前、イラク戦争のときに、シアターZOOにイラクの劇団が来たことがあったんです。字幕もなくて、言葉はわからなかったんですけれど、あるシーンで本人たちが撮った空爆の映像が流れたんです。それがものすごい生々しさでした。それは映像だけれど、それを目の当たりにして実際に録画した本人たちが、自分の目の前にいる。家族や友人を戦争やテロで無くした人たちが、目の前で芝居をしていることが、本当にショッキングでした。

「そこにいる」って、強いなあと。伝わるものがたくさんあるなあと思います。

ジャンルは何でもいいんです。コメディでも、何か強いメッセージ性のあるものでも、お客さんが、そこにいる人と向き合えるっていうのが、演劇の魅力です。逆に怖いところでもあるんですけれどね。

 

 

シーズン作品コンパス

インタビューを受けてくださったyhsの3名に、今回の作品『忘れたいのに思い出せない』がどのような作品なのか、イメージマッピングしていただきました。

縦軸、横軸も自由に決めていただき、ホワイトボードにマグネットをぺたり。

 

マグネットもいくつか用意させていただいたので、お好きなところにはって、作品のジャンルを表していただけました。

南参:初演、再演のときは号泣したお客さんがたくさんいてくれたので、泣けると思いますよ。唯一この作品が、自分で書いたのに泣きそうになる。

曽我:でも、笑えるシーンもある!笑ってほしい!

南参:ファミリーで観てくれたら嬉しいね。

福地:一人でも観てほしい…。どっちにもはったらわからなくなっちゃうかな。

南参:何でもありかよ(笑)

 

 

こうして完成した作品コンパスはこちら!

 

 

yhsらしく、にぎやかに笑えるところもありますが、やはりハンカチ必須の作品のようです。一人で観ればじんわりと、家族で観ればドキドキと泣けるんだそう。家族で観劇、素敵です。

公演詳細




yhs 37th PLAY「忘れたいのに思い出せない」

 

MY BEST BOOK


ー 南参さんのおすすめの本を教えてください。

南参:『バカ日本地図』という本です。バカの知識を集めて日本地図を作ったらどうなるのかっていうコンセプトで、バカの意見を取り入れて日本地図を改変していくんです。

最初の方のページは普通の日本地図なんですけれど、いろんなバカな意見があって、「鳥取と島根は区別がつかないので、全部鳥取にします」「佐賀はどこにあるかわからないので、佐賀は長崎に吸収されました」「鹿児島は島である」とかね。

(一同、爆笑)

久しぶりに読んでみたら面白いですね。考えつかないですからね、こんなアイデア。ちなみに世界地図バージョンもありますよ。

 

ー その本が、なにか、創作に役立ったりとかは…

南参:ないですね。まあ、無駄な想像力も大事だな、と思います。

 

ー 福地さんのおすすめの本を教えてください。

福地:『獣の奏者』というファンタジー小説です。古本屋でたまたま見つけて、裏のあらすじ読んで買ってみたらすごく面白くて。主人公エリンのお母さんが、闘蛇っていう蛇みたいな生き物を飼育していたんですけれど、ある日、闘蛇がたくさん死んじゃったことの責任をとるためにお母さんも処刑されてしまうんです。天涯孤独になったエリンは、王獣という生き物と出会います。王獣は人に懐かないんだけれど、エリンにだけは懐いてしまって、それを国側に知られて、戦争に巻き込まれてしまう…人間と動物と自然への愛があふれた作品です。読んでみてください…!

NHKでアニメもやっていたみたいなんですけれど、私は原作しか読んだことないです。文章で読んだときに、すんなり情景が浮かんだというか、架空の世界だけれどすごく入り込めたんです。

 

ー 曽我さんのおすすめの本を教えてください。

曽我:私は漫画を持ってきました。『覆面系ノイズ』という、福山リョウコさんが描いた漫画です。歌うことが好きな主人公、ニノの幼馴染がいきなりいなくなっちゃうところから始まります。幼馴染がいなくなる前日に「ニノの歌声でもう一回巡り会えたらいいね」と言われたことがきっかけで、ニノは毎日歌を歌いつづける…っていうお話です。

漫画がとても大好きで、落ち込んだりイライラしたときに読んでリセットします。嫌な気持ちのときに読んでもスッキリします。中でも、少女漫画が大好きです。キュンキュンしたりするのいいなぁ!って。

 

ー 曽我さんが『覆面系ノイズ』でキュンキュンしたおすすめのシーンはありますか。

曽我:ある!ニノが、幼馴染の男の子と再開するんですけれど、彼は借金を返すために音楽業界で働いているんです。男の子は「ニノの歌声じゃまだ俺には届かないよ」って言うんですけれど、もう一人の男の子がニノを励まし、ニノが歌うバンドを用意してくれるんです。

そこが、その流れが、男の子の心情が、、、あー説明できない!読んでください!(笑)

 

 

 

 

インタビューの様子は、「ダイジェスト動画」でご覧いただけます(下のボタンをクリック!)。

 

 

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