斎藤歩氏が語る 札幌の演劇環境とシアターカウンシル

札幌演劇シーズン2017-夏、5作品51ステージを大好評のうち幕を閉じました。みなさま、楽しんでいただけたでしょうか。

「演劇の力で、札幌をさらに活力あふれるまちへ」を目的とした札幌演劇シーズンですが、その設立には「演劇創造都市札幌プロジェクト」が関わっています。

一体どういうプロジェクトなのか、札幌の演劇環境をより良くしていくためには何をするべきなのか。今回はプロジェクト事務局長である斎藤歩氏にインタビューしました。

 

斎藤歩(さいとう あゆむ)

劇作家・演出家・俳優
公益財団法人 北海道演劇財団 常務理事・芸術監督

1964年、 釧路市生まれ。
北大演劇研究会を経て、1987年に札幌ロマンチカシアター魴鮄(ほうぼう)舎設立。1996年、北海道演劇財団設立に伴いTPS契約アーティストに就任。2000年より(株)ノックアウト所属俳優として、東京での俳優・演出家の仕事を開始する一方、札幌でも2001年からTPSチーフディレクター。2016年4月より、札幌に移住し、北海道演劇財団の常務理事・芸術監督に就任。

札幌を拠点にした演劇創造、東京を拠点にした映画、テレビ、舞台出演など活動は多岐にわたる。

「演劇創造都市札幌プロジェクト」について


ー はじめに、「演劇創造都市札幌プロジェクト」が設立された経緯やプロジェクトの内容について教えてください。

実は、僕は演劇を作る側ですから、はじめは「演劇創造都市札幌プロジェクト」(以下、プロジェクト)の運営に関わっていなかったんです。活動拠点を東京から札幌に移したのは去年の春から。

プロジェクトを引き受けたのはその時からなので、設立時の詳しいことは知らないんです。どんな議論がなされていたのかってことも詳しくはわからないんですよ。ただ、こういう議論や決定があって、という報告は受けてました。

プロジェクトができたとを聞いたとき、演劇を支える大人たちが本気になったんだなあと思いました。「札幌で100人の演劇人が食べていけるまちにする」という大雑把な目標を持って活動して、その活動の一環として「札幌演劇シーズン」が提案された。2012年にスタートし、初期の頃は、札幌座として参加作品を1年に3〜4作品出しました。

なんとか継続して続けていくと、シーズンが少しずつ軌道に乗り成長しはじめた。しかし、プロジェクトの活動として、ただシーズンを継続させていくだけではだめなんじゃないかとを議論し始めたのが、僕が拠点を札幌に移した去年の春からです。

 

ー 演劇シーズンをサポートするだけでは足りない、ということでしょうか。

シーズンをサポートすることはできたと。シーズンも一人歩きを始めている。

そうすると、次の段階として、プロジェクトが今後何をするべきなのかという議論をしなくてはいけない。シーズンを支えながら更に札幌の演劇環境を良くしていくためには、何をすべきか。シーズンができて喜んでいるだけじゃ、シーズンもどんどん失速し飽きられてしまうから、さらなる展開を考えなきゃいけない。

そこで、今年はまずプロジェクトの提言書を全部見直しました。

今までの提言書は、ざっくり言うと「札幌市は舞台芸術に対して1億円くらいお金を出しなさい」という内容でした。その1億円を使って、市内にパブリックで民間の劇団を複数おきなさいと。

しかし、現在の札幌演劇環境には実情にそぐわなくなってきている。そこで、「既にある劇場そのものに、札幌市や北海道が資金を提供してください」という主張に変更しました。「シアターカウンシル」という言葉を使い始めたのは、この新しい提言書からです。

 

「シアターカウンシル」とは


ー 「シアターカウンシル」とはどういうものですか。

集めたお金をどう分配するかを考える、演劇の目利きたちによる評議会です。市や国、企業から集めたお金を、どう使っていくかを考える人たち。獲得した予算をどう分配するのかを検証する専門家の集団

似たような機関として、東京や大阪にはアーツカウンシルというものがあります。これはその街の文化芸術全般を担当していますが、実は演劇や劇場に特化した「シアターカウンシル」は全国に例がないんです。でも、札幌にはシアターカウンシルが必要なんじゃないかと。ただお金を要求するんじゃなくて、そのお金にはどんな使い道があり、そのお金を演劇に使うことによってどんなメリットが生まれるかということを数値化して説得力を持たせないといけない。

この役割をお役所の人達に任せておくんじゃなくて、演劇の目利き、マネジメントの専門家、作品の完成度や補助したお金の到達度も認識できるような人を集めた、評議会を作ったほうがいいんじゃないか。このような内容の提言としました。

札幌の人にとってはアーツカウンシルもシアターカウンシルも一体何のことだかわからないですよね。これは全国に例がないことですので、数年の研究期間が必要です。プロジェクトを、演劇シーズンを支えると同時に、「シーズンにもう少し機能的にお金を分配できたり、市民が納得できるようなお金の使い方をするための研究機関」と位置づけます。

芸術文化は、観客からの収入、行政からの補助、民間企業からのメセナ、この3つがバランス良く機能して成り立つものです。

ロシアは、昔は社会主義国だったので、演劇公演費用の8割は国、2割がチケット収入で成っています。コーラ1杯ですごい豪華な芝居が観られるような国でした。しかし、今は国の補助が半分、3割が企業、残りがチケット収入になっている。

ロシアにはロシアの、札幌には札幌独特の3つのバランスがあると思うんですよね。現在はこういったことをプロジェクトで議論しています。

 

ー シアターカウンシルの役割を担う「演劇の目利き」はどのような方々ですか。

研究者だったり、評論家だったりですね。札幌にはどのような構成メンバーが適しているのかはわからないですが。そういう人を育てていくことも必要だと思うし、もしくはよそから呼ばなきゃいけないかもしれない。

 

ー 演劇をたくさん観ている人(≒観劇人)ではなく?

意外とそういう人じゃないほうがいいと思います。そういう人が一人いてもいいんですけどね。「あの劇団据わってきた」とか、「この劇団はそろそろこういうステージに立たせるべきだ」というのがちゃんと分かる人も必要だと思うけれど、シアターカウンシルは演劇のファンではないので。市民に対して説得力を持たせるための機関ですから。

ですので、本来はこういったプロジェクトに、僕みたいな人が真ん中にいてガーガーやるべきじゃないと思うんだよね。僕なんかは、もう、完全に演劇の真ん中にいる人じゃないですか。そうすると、まるで僕が自分の利益を誘導しているように見えちゃうから(笑)

そうじゃなくて、シアターカウンシルは「市民の利益になること、市民に開かれたものであって、公平性が保たれているもの」である必要がある。

公平性は、行政の平等原則ではない。行政は、芸術文化に関しては財政を重点投下してほしい。満遍なく、幅広く公平に資金を出すっていう考え方も当然だとは思うけど、それだと芸術文化は伸びないっていう考え方です。

「いま支援するべきはここなんだ。ここを伸ばすことで、このまちの財産になるんだ」というようなことを判断する責任者がシアターカウンシルです。どの劇団・劇場も同じくらい支援するんじゃなくて、何人かの専門家による責任団体を作り、評価し判断し、予算を分配する。そして、市民が芸術を享受する。ダメなら途中で変えるとかね。そういう透明性があったほうがいい。

 

海外都市と比較した札幌演劇


ー 先日も札幌座の公演で「亀、もしくは…。
」をロシアで上演されましたが、日本と比べて、海外の演劇環境に違うものを感じますか。

歴史かな。まちの真ん中に劇場があって、演劇を観に行く文化がある国が多いです。

日本は伝統芸能しか守らなかった。歌舞伎や文楽などは国立劇場で保護したけれど、第二次世界大戦の頃に日本が輸入したロシアの演劇は、左翼演劇と非難されて弾圧の対象になりました。

まだ戦後70年しか経ってないわけだから、演劇の歴史もまだ70年です。しかも、今僕らがやっているような現代演劇が出てきてからはまだ20年くらいしか経ってない。日本の演劇は、市民や生活に浸透するだけの時間が経っていなくて、「好きな人がやってるんだ」という見え方なんですよね。義務教育の中に書道や美術はあるけど演劇はない。諸外国はあるけど。そういう点で日本の演劇が諸外国に追いつくには歴史がまだまだ浅すぎる。

 

ー 逆に言えば、演劇シーズンのような取り組みを続けて歴史を創っていけば、外国にも追いつけるような環境ができるということでしょうか。

そうなっていってほしいけど、それは僕が死んでもまだ実現してないと思う。だけど20年前よりは良くなっていってるはず。そのためには僕よりも下の世代、次の世代がきちんと理論づけてこういう取り組みを続けていかなくちゃいけない。それは個々の劇団の活動だけじゃ無理で、それこそプロジェクトの役割じゃないかなと思います。

 

 

ー 若い世代への取り組みが大事ということですが、何か学生への取り組みは行っていますか。 

プロジェクトじゃなくて北海道演劇財団としての活動となりますが、学生へのワークショップを増やしました。

演劇部の指導をすることもありますが、もっと多いのはコミュニケーションワークショップです。人とちゃんと接する、人の話を聞く、人にちゃんと伝える、意見の違う人と共通の課題を乗り越える経験をしてもらう。演劇の基礎中の基礎を体験してもらいます。

あとは、「地域で輝く子どもと子育て世代のためのコミュニケーションワークショップ」も開催しました。赤ちゃんを抱えたお母さんをスタジオに集め、ベビードラマと題したワークショップに挑戦してもらう。演劇人が持ってるノウハウを地域に役立てていく活動です。こういった取り組みは今後も増やしていきたいです。

 

ー 演劇を作る側として、何か演劇シーズンに変化を感じることはありますか。

開催初期と比べ、観客数も参加劇団の数も増えました。今後は、一つの作品の公演期間をもっと伸ばしてほしい。というより、公演期間を重ねちゃった方が良いと思います。地方から札幌に来たお客さんにとっては、短期間にいくつか観て帰れる方がいいじゃないですか。

公演期間を10日とか2周間に伸ばし、作品の公演期間を重ねていけば、お客さんは楽しめると思うけれど、それだけのお客さんを集めるのも大変です。札幌演劇シーズン10周年である2022年までに、どうなっているかですね。

 

ー ありがとうございました。

こちらこそ、どうもありがとう。

 

2017年7月6日 北海道演劇財団にて

 

非常に興味深いお話でした。未来の札幌演劇をどうしていくべきか、ただ作品を作るだけでは発展することはできません。「シアターカウンシル」についてもさらなる調査が必要です。

札幌が演劇創造都市になるために、共に考えていきましょう!

下のボタンから新旧の提言趣意書がダウンロードできます。新旧を読み比べ、札幌演劇シーズンのあり方、シアターカウンシルの可能性について考えてみては。

 

 

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