気軽にどこでも大地をつかむ「ニッポンの河川」初の札幌公演

「極端にミニマムなシステムの中で作った面白い芝居を観ていただきたいです。」

そう語るのは東京を拠点に活動される演出家・劇作家の福原充則さん。ピチチ5(クインテット)の主宰として舞台公演を上演しながら映画やテレビドラマの脚本家としても知られる、日本を代表する演劇人です。

福原さんが脚本をつとめる演劇ユニット「ニッポンの河川」の公演が11月に琴似コンカリーニョであります。「ニッポンの河川」の札幌公演は今回が初!そこで、福原さんにインタビューし、作品の魅力と福原さんの見る札幌演劇の特徴について語っていただきました。

 

福原充則(ふくはら みつのり)

演出家、劇作家、俳優。02年、「ピチチ5(クインテット)」旗揚げ、主宰と脚本・演出を務める。

また「産卵シーズン」、「ニッポンの河川」、「ベッド&メイキングス」なるユニットを立ち上げ、4劇団をかけもちする節操のない活動を開始。一時は「マンションマンション」座付き作家も。

生活感あふれる日常的な光景が、飛躍を重ねて宇宙規模のラストまで結実するような物語作りに定評がある、と某雑誌に書かれたので以後自分でもそう語るようになる。代表作に宮崎あおい主演「その夜明け、嘘。」、要潤主演、大槻ケンヂ作詞の楽曲を元に作・演出をした「サボテンとバントライン」、谷原章介主演「豆之坂書店」、乃木坂46「墓場、女子高生」、小泉今日子・古田新太主演「いやおうなしに」等々。

「ニッポンの河川」について

『大きなものを破壊命令』(2014)撮影:田中亜紀


ー はじめに、「ニッポンの河川」がどのような団体か、結成した経緯も含めて教えてください。

結成したのは、僕が30歳のときでした。芝居を始めたのは23歳、初めて自分の劇団を旗揚げしたのは27歳。若い頃はバイトしながら延々と演劇に明け暮れていてやっていたんですけど、あるとき、このまま同じことをやっていても成長しないなと思った。

だから、悪口を言い合いながら成長し合える集団を作った。7年やって売れなかったら、100年やっても売れない。しっかりと自分が成長できるようなチームが欲しくて、「ニッポンの河川」を結成しました。

それとは別に、演劇で黒字を出してみたかったということもあります。「徹底的に安く作る」ことを目標に、音響や照明のスタッフを呼ばずに、すべてのスタッフワークは役者が舞台上でやるという演出を試みました。役者さえそこにいれば気軽に上演できる演劇を作りたかったんです。旗揚げ公演はタダで貸してくれたカフェを会場に、豆電球の照明とカセットテープの音響で上演し、今もそのスタイルは変わっていません。役者が舞台上で音響や照明を操作しながら、演技をします。

 

ー 「音響照明を役者が操作する」という手法のきっかけは、面白い演出効果を狙ったというより、経済的な事情だったということですか。

「ニッポンの河川」は僕の4つ目の劇団だったんです。だから、実験的な演出効果や「やりたい芝居をやる」みたいなことは他の劇団でもできた。この団体では、気軽にどこでもやるということをテーマとしました。

ダンサーに憧れていたということも、このスタイルを生み出した要因の一つかもしれません。酒飲んで酔っ払って、いきなり即興で踊り出すダンサーを見て、「これは役者はできない」と思った。ミュージシャンもそう、練習の帰り道でちょっと歌うみたいなことは演劇の役者にはできない。

演劇でなるべくそれに近いことをやってみたかった。ものすごく簡単なシステムで、気軽にパッとできる演劇もあるんじゃないかと思ったんです。ミニマムに、どこでもやる演劇。

 

ー その作り方であれば、劇場以外の場所でも公演ができる。

そうです。今回の作品は東京・札幌2都市公演で、東京では完全野外公演になります。札幌では劇場公演になりますが、野外でやった演出でそのまま持っていきます。

乾電池とバッテリーだけで動くものを使って、音も光も出す。…伝わるかな。観てもらえたらわかると思います。

 

「大地をつかむ両足と物語」


ー 今回の作品「大地をつかむ両足と物語」はどのような作品ですか

30年くらいの時間軸がものすごいスピードで行ったり来たり動きます。短いシーンをどんどん繋げる高速モンタージュというか。

※モンタージュ:映画用語の一つ。視点の異なるカットを繋げることで、意味を持たせる映画編集の技法のこと。

シームレスに(繋ぎ目がなく)役が変わっていくことも特徴の一つです。役者が舞台上で会話を続けながら、いつの間にか違う役にやっている。

でも、マニアックなことをやっているつもりはないんです。ニッポンの河川の旗揚げ公演でも同じような演出で上演しましたが、宮﨑あおいさん主演で再演もされるくらい、ちゃんと楽しめる作品ですよ。よくわからない、アート的で実験的なことをやっているのではなく、しっかりと、楽しめる芝居をやっています。

ニッポンの河川『大地をつかむ両足と物語』

2017.08.17

 

ー 東京では完全野外公演に挑戦するということですが、野外でやることの意味や期待はありますか

野外公演、まずやってる僕たちがすごく楽しいんです。イレギュラーな問題が色々起こる。飛行機や救急車が通過したり、周りでアクシデントが起こったり、風が吹いたり雨が降ったりして、お客さんも全然集中しない。思わぬ出来事や自然が、ポジティブになったりネガティブになったりする。原始的で、野性味が出る。

稽古場で練習した台詞が、風が吹くことで持っていかれちゃう。そうなったとき、役者と客席の間の空間が「見える」というか。空間の隔たりが、風を媒介にすることで「物質的に見えてくる」というか。その面白さに魅力を感じています。

 

ー 自然がもたらすネガティブな影響が面白い、ということですが、例えば雨が降った時はどうするんですか

頑張るんです。そのまんまやります。

野外公演といっても、屋根がある場合とない場合があって、屋根がある場合はその材質によって雨音の聞こえ方が違うので、それをどこまで意識してやるかは一回一回考えます。

雨が降ると、お客さんのテンションも上がるんですよ。「雨の中で芝居を観ている!」みたいな。特に屋根がないときは、濡れながらモノを観ているという興奮が起こるんでしょうね。楽しいですよ、雨。

 

『大きなものを破壊命令』(2014)撮影:田中亜紀

 

劇場は閉鎖空間です。チケット買った人しか入ることができない特別な場所。しかし、野外公演となると、その辺を散歩している人とチケットを買ったお客さんが同じ空間にいることになります。それに気づいたとき、「すぐそばにいる人が観ていないものを、自分はチケットを買って観ている」ことに感動するんです。同じ時間、空間を共有しているのに、チケットを買ったが故に自分だけが芝居からの情報を得て、それで心が動いている。「『芝居を観る』とは何か」とか色んなことを考えます。

いま自分の横を通っている人は観ていない、自分だけが観ている現実があるということを知ったとき、自分はどこまで世の中にあるものを認知し、考え、心が動いているんだろう、と。

簡単に言えば、好奇心がアップします。

札幌では劇場公演ですが、東京の野外公演でやったときの興奮をそのままお届けできたらいいなと思います。

野外であるかどうかは置いておいて、極端にミニマムなシステムの中で作った面白い芝居を観ていただきたいです。劇場公演なのに、普段劇場で上演する芝居より、もっともっとミニマムな機材で上演します。それで芝居は成立するんだということを知っていただけるんじゃないかと。

 

ー 「ニッポンの河川」として札幌で公演するのは初めてということですが、どうして今回札幌公演を企画されたのですか

札幌には、お客さんがいるからです。演劇があまり馴染みのない街に行くのも楽しいんですけど、まずは東京以外で、芝居を観る文化がある街で上演したいと思い、札幌だなと。

あとは、一度札幌のとある劇団とお仕事させていただいたときに、びっくりするくらい良い役者がいっぱいいたんです。だから、今度は僕たちの芝居を観てもらいたいなって思いました。

 

ー 「札幌は演劇を観る文化のある街」とのことですが、どのようなときに札幌の演劇文化を感じますか

札幌は、上質で面白い芝居を上演している劇団が多い。自分たちのオリジナルをやっている劇団が多い、というか。

札幌は、演劇を娯楽・文化として楽しむことができる街だと思います。

僕も札幌の全部の劇団を見ているわけではないので推測に過ぎないのかもしれませんが、札幌演劇人は、芝居をやるための切実な理由がある人が多い気がします。ネガティブな理由がちゃんとあって創作をしている。それこそがモノづくりの根本的なモチベーションだと思うし、だから面白い芝居が作れるのだと思う。その切実さに共感しました。

 

 

ー 札幌は現在、「演劇創造都市札幌プロジェクト」や「札幌演劇シーズン」といった活動を通して、札幌演劇を札幌の財産にしていく取り組みを行なっています。まちに演劇が文化として根づいていくために必要なことは何だと考えますか。

よく耳にする「海外の都市は劇場文化が根づいていて…」という状況、僕は海外に住んだ経験はないのでいまいち想像がつかないんです。どういう作品がどういう人に対して身近で根づいているのか。社会の片隅にいるよるな人たちに向けて作っている作品は、文化として根づいてくのだろうか。

現実的に考えれば、もっとチケット代を安くするとか、具体的なアイデアをあげることはできるんだろうと思うけれど、きっと、もっと大切なのは、演劇だけ観てもらっても演劇は文化として根づかないという視点じゃないかと。

演劇だけ好きって人はいるんだろうか。本が好き、音楽が好き、スポーツ観戦が好き、絵画が好き、映画が好き、そして演劇が好き。

人間、文化的なものや創作物に触れずに生きていくことはできないんだと思います。思春期のときに聞いた音楽に励まされたりするように。その「文化は人間にとって大切なんだ」という価値観が消えなければいいなと思います。

演劇は気軽な文化芸術ではないから、まずは気軽なところから体験してほしいです。極端な話、劇場に足を運んで欲しかったら、CDで音楽を聴いてもらうことを考えてた方が早いかもしれない。

 

ー 初めての札幌公演、期待していることはありますか

僕が抱いている札幌への想いは、勝手なイメージに過ぎないと思います。片思いです。

札幌のこと大して知らないくせにと言われると思いますが、僕のこの妙な片思いは、「札幌は他の都市よりも、僕のやりたいことをわかってくれるんじゃないかな」と勝手に期待しているんです。勝手な友だち意識を、裏切らないで受け入れてほしいです(笑)

 

ー 本日はありがとうございました。

ありがとうございました。よろしくお願いします。

 

2017年10月3日
経堂駅付近の飲食店にて

乾電池とバッテリーだけで動く機材を用いて、どんな場所でも演劇を上演する。一体どんな作品がやってくるのでしょうか。

公演は11月17日(金)〜19日(日)全4回、琴似のコンカリーニョにて。17日(金)19:30の回はアフターイベントとして、終演後に公開ダメ出しが行われ、18日(土)14:00の回の終演後は川尻恵太(SUGARBOY)氏をゲストに招いたアフタートークも行われます。

確かな評価を得ている福原作品が札幌で上演されます。あなたは今秋、超絶怒涛のミニマム演劇を目撃する!

 

公演情報

ニッポンの河川『大地をつかむ両足と物語』

2017.08.17

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